第126話 帰りの延期

 人攫いに遭遇した日の夕方。


 宿屋に一旦戻ったタウロとエアリスはシンとルメヤを連れて、リーダの宿泊する宿屋にすぐ向かい今日起きた事の顛末を一部始終リーダに説明した。


「そんな事が!?……じゃあ、明日は朝から帰るわけにはいかないですね……」


「……すみません。雇い主にご迷惑をおかけします」


 タウロがエアリスと二人で頭を下げた。

 側で聞いていたシンとルメヤも慌てて頭を下げる。


「いいえ。タウロさんがいないと今回の商談もどうなっていたかわからないですし、運搬も助けて貰って費用はその分沢山浮いてるのでお気になさらないで下さい。それに、もう少しこちらに滞在して見て回りたいとは思ってたので、良い口実が出来ました」


 リーダは嬉しいのか喜んでいた。


 こちらにいる間の自分達の滞在費用は自腹で払って残るとタウロはリーダに伝えたのだが、うちの商会が出しますよ、と言って断わられた。


 雇い主に迷惑をかけてその間の肩代わりまでさせたら申し訳が立たないというものだったが、本当にリーダは気にしていない様子だった。


 シンとルメヤもこのオサーカスの街にもう少し残れると知って大喜びだった。


 二人にはここの水が余程あっているらしく楽しんでいた。


 そのまま、リーダを含めた5人は夕食を一緒にしてその人攫い事件について話をした。


「この国では奴隷制度はかなり昔に無くなったから、さすがに買い手はほとんどいないと思うのだけど」


 リーダが首をかしげて悩んだ。


「じゃあ、他国からやって来た可能性もあるんじゃないか?」


 シンが鋭い指摘をした。


「でも、人攫いはこの街の訛りで話してたのなら違うんじゃない?」


 リーダがシンの指摘に反論した。


「人攫いにはこの街の地理に明るいならず者を雇って、自分達は海外に運んで売る事もできるわよ」


 エアリスが別の可能性を指摘した。


「じゃあ、この街の人間でも船さえ有れば出来る事になるよな」


 ルメヤが当然、その答えに辿り着いた。


「それはありそうだけど、可能性は低いかも。この国で人身売買で捕まるリスクは船を所有する程の財力を持っている者には大きすぎると思う。ただ、借金で首が回らなくなって最後の手段で手を出したとかなら、考えられるかもしれないけど」


 タウロが、可能性が低そうな指摘をした。


「それはあるんじゃない?借金で困ってたけど最近羽振りが良くなってきた人か、国外からの船を探すとか、犯人を絞る可能性としてありだと思うわ」


 リーダがタウロに頷いた。


「……私達が考えても仕方ないわよね?」


 エアリスがもっともな指摘をした。


「ははは……。ほら、明日、僕とエアリスは警備兵の詰め所に改めて行かないといけないし、その時に話せば犯罪捜査の役に立つかもしれないよ?」


「そうだけど……、子供の提案なんて聞く耳持ってるかしら」


「一応、助かった唯一の被害者だから、きっと参考にはしてくれるよ」


「そっか、そういう事も言えるわね。わかった。明日、言いましょう」


 エアリスはタウロの言葉に納得した。

 機嫌はいつの間にか直ったようで、タウロは内心ほっとするのであった。




 翌日の朝。

 タウロとエアリスは早速、警備兵の詰め所に向かうと、証言をする事になった。

 そこで、リーダーの男がこの街の訛りがあった事、そこから推察した事などを伝えると、警備兵の責任者っぽい男性が頷くと、


「捕らえた連中はまだ口を割らんが、うちもその線で最初は捜査する事にするか」


 と、驚くほど素直に納得してくれた。

 自供が取れないので動きようが無かったのだ。


「あ、あと、捕まった人達に会わせて貰っていいですか?」


「?普通、被害者は加害者に会いたくないもんやが、ええんか?」


 責任者は、驚いて聞き返した。


「はい、それで、自供したら捜査も進みますよね?」


「そりゃ、そうなったら助かるが、ホンマにええんか?」


「はい、大丈夫です」


 そういうと、責任者の案内で詰め所の地下の牢屋にタウロは降りて行った。


「みなさん、怪我はもう大丈夫ですか?」


 タウロは一人一人隔離された牢屋に近づくと犯人二人の怪我を心配してみた。


「チッ!闇魔法のガキか!俺は何も吐かんぞ?」


 犯人の一人である闇魔法の耐性持ちの男がタウロを見るなり、警戒態勢を取った。


「あなた方のリーダーさんを想像すると、捕まったお二人は用済みなので斬り捨てると思うのですが、話す気はありませんか?」


「誰がしゃべるかい!このクソガキ!」


「…。」


 闇耐性持ちの男は息巻いたが、もう一人の男は沈黙したままだ。


「二人の内、しゃべってくれた方には、僕達が被害届を取り下げて、お上に減刑をお願いしますよ。そうすると、死罪は免れられるかもしれませんよ?」


「「!」」


 責任者は子供であるタウロの発言に驚いて凝視したが、やりたい事がわかったのだろう、


「俺も、口添えしよう。ただし、この少年が言った通り、助かるのは一人だけだ。では、そっちの静かな男の方から、尋問室に移動して貰うかな」


 と提案すると男を牢から出す様に部下に命じた。


「ちょっ!あ……!」


 慌てる闇耐性の男だったが、息巻いた手前、連れていかれる男にしゃべるなよと声をかけるしかできないのであった。

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