第125話 人攫い

 エアリスは一時の間不機嫌だったが、タウロがお昼ご飯奢るよ、という言葉に機嫌はよくなった。


 職人達に美味しいお店を聞いて、裏通りの食堂に行く事にした。


「タウロ、こっちから行く方が早いんじゃない?」


 エアリスは細い路地を指さすと、タウロの腕を引っ張って入っていく。


「エアリス、そっちは良い気配がしないから駄目だって!」


 タウロが慌ててエアリスを止めたが遅かった。


 スッと男が二人、物陰から出てきてタウロ達の道を塞いだ。

 後ろからも表通りに立っていて話し込んでいた二人の怪しい男が現れ、道を塞ぐ。


「お嬢ちゃん達、残念やったなぁ。ここは子供が通るとたまに行方不明になるところやで」


 この人は親切にも自分達を人攫いだと宣言してくれた。

 タウロはすぐに小剣を抜いて構えた。


 エアリスも無言で杖に魔力を流すと、魔石のついて居る部分の先端に刃先の様な光を宿らせた。


「お?見た事ない杖やな。それも売れそうやわ」


 人攫いのリーダーっぽい男は、タウロ達が武器を構えても慌てる事が無い。

 所詮子供と侮っているのだ。

 タウロは密かに闇の精霊魔法を唱える。


「……おらー!」


 後ろに立ちはだかっていた男が隣にいた仲間の男に斬りかかった。


 不意を突かれた男はまともに斬られて肩に深手を負って悲鳴を上げて倒れ込んだ。

 錯乱した男はタウロとエアリスを素通りするとリーダーの男達に斬りかかる。

 リーダーの男は動揺したが、すぐさま錯乱男の剣を跳ね上げると無常に斬り捨てた。


「チッ!何しやがったこのガキ!」


 人攫い達が困惑してる間に、タウロはリーダーと一緒の男にも精神攪乱系の魔法を使ったが、男は堪えて振り払った。


「兄貴!このガキ、闇魔法系を使いよるで!」


 リーダーと一緒の男は闇魔法に耐性があって知識もある素振りをみせた。


「ガキは殺して、小娘だけ連れてくぞ!」


 リーダーはそう判断するとタウロに斬りかかる。

 その攻撃は鋭く、相当な腕である事が、受けたタウロにはわかった。

 もう一人の男はエアリスを捕らえようと近づくがエアリスが杖を男に振った。


 男は杖を余裕をもって躱したつもりだったが、光る部分の距離感を誤った。

 浅いが胸から腹にかけてパックリと斬られて血を吹いた。


「ぎゃー!」


 人攫いのリーダーは、仲間がやられる叫び声を背中に感じると舌打ちして、


「ガキ、運が良かったな。今回は見逃してやる」


 そう、捨て台詞を言うと表通りに走って人ごみに駆け込み、あっという間に溶け込んで人攫いのリーダーは消えるのだった。


「……ふー。危なかった……」


 タウロは安堵した。

 このままだと、自分が不利だと剣を交えて気づいたからだ。


「タウロ大丈夫だった!?」


 エアリスが、振り返るとタウロに歩み寄った。


「うん、エアリスは巡回中の兵士を呼んで来て!」


 タウロは、そういうと怪我をした人攫いにポーションを投げかけて治療しながら縄で縛り上げていった。



 警備兵が駆けつけた時には、二人の男の傷は塞がり助かったが、人攫いのリーダーに斬られた男は亡くなった。


 タウロとエアリスは詰め所に事情聴取の為に人攫い達と一緒に連れていかれる事になったのだが、この事にエアリスは不満を爆発させた。


「私達はこれからお昼ご飯を食べに行くところだったの!もう、お昼過ぎるじゃない!」


 警備兵達はこの少女にタジタジになりながら、


「そう怒らんといて。ワイらも仕事やさかい勘弁したってぇな……!」


「今日は簡単に話し聞いたら、後は明日でいいから、頼むわ……!」


 とお願いし、視線で連れであるタウロにどうにかしてと訴えてきた。


 タウロもこれには申し訳なかったので、マジック収納からサンドイッチを出すとエアリスに詰め所で食べようと提案したのだが、そういう事じゃない!と、怒られるのだった。


 結局、詰め所に行って経緯と事の顛末を説明する事になるのだが、その間、エアリスの機嫌はサンドイッチを食べた後も、よくなる事はなかった。


「明日、改めて来てな?ここ最近失踪届けが増えて問題になってたんやが、人攫いとなると、犯罪組織が関わってる可能性大やから、君らがその証言者となると、こっちも重要やねん」


 警備兵の責任者っぽい男性がそう説明すると、彼女さんにも謝っといてな、とタウロに耳打ちすると二人は解放されるのだった。

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