第64話 強力過ぎる魔法
村に戻るとまだ変化はなかった。
だが、ボブが言うには、きな臭さは完全に消えているそうだ。
「ありがとう、タウロ!」
「僕は何もしてませんよ。ソーサラーを倒したのはボブさんですから、ボブさんのお手柄です。僕はたまたま精霊さんから伝言されただけですから」
『浄化』魔法の件は説明すると長いので、タウロは手柄を全てボブに譲る事にした。
村に来て十日目が経った。
村にも変化が出てきたようだ。
わかり易いところでは宿屋の女主人の対応が変わってきた。
憑き物が落ちたように愛想がよく闊達で悪意の無い冗談が出てくるようになった。
村全体も笑い声が聞こえる様になり、雰囲気も良くなってきた。
「これが本当のこの村の姿なんだろうな」
ボブは感無量といった感じで涙腺を緩ませた。
「あのまま、何も出来なかったらお世話になった人に会わせる顔が無かったよ」
ボブは思い出したのか遠い目になった。
「この村出身の冒険者さんですよね?」
「うん。お酒を奢ってくれて、この村の話をしてたなぁ」
うん?
タウロは何となく違和感を感じた。
「えっと…、その人の名前は…?」
「うーん、お酒入ってたから覚えてないなぁ。この村の名前だけは鮮明に覚えてたんだけどなぁ」
もしかして……。
「お世話になったのって……、そのお酒を奢って貰った事、……ですか?」
「そうだよ?」
軽っ!
お酒奢って貰ったくらいだったの!?
ボブさん死にかけたよね?
僕も、一か八か命を賭けて、お腹に大穴空けられたんですけど…!?
タウロは心の中で目いっぱいのツッコミをボブに入れた。
ボブの男気にタウロは揺り動かされた部分は大いにあったのだ。
犬は一宿一飯の恩をずっと忘れないという、この人、犬人族だからそういう事なのだろうか?
いや、それにしたって、代償が大き過ぎるだろう!
そのボブの行動があったから結果的にこの村を救えたのだが、やはり納得がいかないタウロであった。
タウロはさらに十日分の宿泊代を支払ってこの村に滞在する事にした。
この村の今後が気になる事も大きかったが、この村の周辺の森は珍しい薬草が取れる、なのでタウロは新たなポーション作りに挑戦し始めた、失敗続きでうまくいってないが材料は生えている地道にやっていれば成功するかもしれない。
あと、この村の木工所には高級な良い木材が安価で入手できる事も滞在する理由の一つになった。
タウロはジーロ・シュガーの名でリバーシの一点物である特別盤をごくたまに作ってガーフィッシュ商会の支部がある町や村で買い取って貰っている。
この村には商会の支部は無いが、旅先で発見したら売ればいい、マジック収納があるから在庫を抱えていても困らない。
なので材木もいくつか購入してストックし、たまに森で空き時間にマジック収納から取り出しては特別盤を作成していた。
そんな中、ふとタウロは思い出した。
精霊による闇魔法を試していなかったのだ。
作りかけの特別盤をマジック収納に戻し、周囲を警戒した。
『気配察知』にはコボルトが二匹、近くにいるのを確認できた。
このコボルトで試してみようと『気配遮断』で隠れて近づいた。
「……それじゃあ、闇の精霊さんお願いね。精神操作と能力低下」
タウロは魔法を唱えると、この二匹にすぐ変化があった。
突然、睨み合うと喧嘩になったのだ。
能力低下のせいか、子供の喧嘩のように力の無い殴り合いが続く。
お互い決め手が無く、勝負が付かない様だ。
一度、疲れて手を休めるが、また、殴り合う、噛みつくこれはまさに子供の喧嘩だった。
「……自分でやらせといてなんだけど、怖い魔法だな……」
さらにそこに、靄を出して視界を奪う。
コボルト達は喧嘩どころではなくなり慌てだした。
さらに、麻痺魔法を唱えてみた。
二匹のコボルトは硬直したようにその場に倒れ泡を吹きだした。
精霊の麻痺魔法はただでさえ強力なところに能力低下した二匹には致命的だった様だ、絶命していた。
「…これは二度と使っちゃいけないやつだ。精霊魔法って通常魔法より強力な上に闇の精霊の加護で上乗せもあるから、本当に危険過ぎる……。それに……」
ごっそり魔力を持っていかれた感じがした。
これだけ強力なのだそれはそうだろう。
敵に使うにも、これはよほど考えなければならないと自分に言い聞かせるタウロだった。
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