第56話 修繕クエスト

 この村での最初のGクエストは、冒険者ギルドからの依頼だった。


 ギルドの建物の修繕である。


 クエストの紙がボロボロなところを見ると、受ける人がここ最近では一人もいなかったであろう事が察せられた。


 自分は木工の熟練度も上げていたし、『精密』の能力で器用のステータスも補正強化されている。


 修繕はお手の物だ。


 が、ハシゴひとつ無いのには呆れた。

 なのでそれも自分で作った。

 材木などの材料はギルドの倉庫にちゃんとあったので安心した。

 ハシゴがないのだから、材料も自分で用意させられるのではと心配になったのだ。


「……すぐ終わらせて村を散歩してみようっと」


 いっそ、村の名物になる様な修繕をしようかとも思ったが、やり過ぎては目立つので地味にそれでいて綺麗に直した。

 これくらいなら器用な子供の仕事として感心されるくらいだろう。


 修繕が終わった直後、受付嬢が子供のクエスト受注に心配になったのかギルドから出てきてギルドの建物を表から見上げていた。


「え?もう終わったの!?……凄い。あなた……、えーっと」


「タウロです」


「そう、タウロ君、あなた木工系のスキルでも持っているの?まさかこの建物がこんなに綺麗になるなんて思ってもみなかったわ……」


 あれ、思った以上に良くし過ぎたかな?


 これまで、芸術家レベルの仕事をしていたタウロの感覚ではかなり地味に抑えたつもりだったのだが、他人にはそう見えなかったようだ。

 早速目立つ事になってしまった。


 屋根から降りてギルドの室内に戻ると、


「クエストクリアで、いいですか?」


 と、聞いた。


「ええ、手続きを早速……。あ、以前いたところでGクエストをいくつも消化してますね。昇格条件を満たしているので、今日からFランク帯に昇格です」


「あ、ありがとうございます」


 二度目なので感動は無かったが、これで少し受けられるクエストが増えるので良しとしよう。


 タウロはFランク冒険者の証明である鉄のタグを受け取ると早速村の散策に出かけた。


 夕暮れ時なので家々から住人が出てきていた。


 その人々の合間を通り過ぎると、よそ者だとわかったのか、こちらをジロジロと見てくる。

 やはり門番が言ってた様によそ者に対する警戒感が強いのかもしれない。


 それにしても十一歳の子供にそこまでなぜ警戒するのか不思議だったが、今日は大人しく宿屋に戻った方が良さそうだ。

 夕暮れ時にうろつくのは止めておこう。


 引き返すと部屋に閉じこもる事にした。

 その為にとりあえず、扉のカギを修理していると、


「お?君もよそ者かい?」


 と、こちらに歩いてくる茶色い鬣の様な長い髪に犬の耳、そして尻尾のある黄色い瞳の犬顔、きっと犬人族であろう男性がいた。


「一応冒険者です」


「俺もそうだ。その歳で冒険者も珍しいな。おっと俺はボブだ」


「タウロです」


 挨拶代わりに握手をした。


「奥が俺の部屋だ。これからよろしくな」


「はい」


 ボブは一度部屋に戻ると、すぐ出てきた。


「飯はどうするんだ?」


「僕は自分で用意してる物を食べます」


「そうか。……ここだけの話、ここの飯はあんまり美味くないぞ」


 冒険者ボブはタウロの耳元で呟いた。


「……わかりました」


 小さく笑いながらタウロは小声で答えた。


「じゃあ、俺はその夕飯を食べてくる」


 ため息交じりな表情をしてボブは立ち去った。


 隣人は良い人そうだ。


 ちょっとした安心感を得るタウロであった。




 朝起きて食事を部屋で済ませると部屋を出た。

 すると丁度部屋から出てくるボブと出会った。


「お、タウロ、おはよう。昨日、聞いたぞ。冒険者ギルドの建物の修繕したのお前だってな。一日見なかっただけで綺麗に修繕されていたから驚いたぞ。あのクエスト、受付嬢のクロエにしつこく勧められてたんだがな、器用じゃないから断ってたんだよなぁ。助かったわ」


 あ、僕は勧められなかった。


 と、思ったタウロであったが、その言葉は飲み込み、


「器用なので丁度良かったです」


「そうか。そう言えば、お前、冒険者ランクは何だ?俺はEだ。もうすぐ上がりそうな気もするけどな」


 ボブはタグを出して見せた。

 確かに銅製のタグ、Eランクの証だ。


「僕はそのクエストクリアでF-ランクになったばかりです」


 タウロも鉄製のタグを首元から出して見せた。


「そうか、冒険者成り立てなんだな。困った時は俺にいいな。アドバイスぐらいならできるからな」


 そういうとボブは宿屋の食堂スペースに入って行った。


「よし、今日からFクエストを頑張るぞ」


 タウロは気合いを入れるとギルドに向かうのだった。

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