第46話 ショートメール from ナディア

 作戦会議を行うために、俺達は宿を取ることにした。


「カイルくん、ここはスマホで確認すべきじゃない? 

ナディアがこの辺で利用した宿があるかもしれないでしょ」


 エノアの言葉を聞いて、なるほど思う。

 英雄姫ナディアが利用した宿があれば、何らかの手がかりが見つかるかも知れない。


「どれどれ、ナディアのブログを……」


 いつものように起動しようとした。

 すると、スマホのランプが点滅している。

 なんだ?


『メールが一件来ています』


 画面上にはそう表示された。

 メール……!?

 この、異世界で?


「ありえない」


「何がですか?」


「何がだよ」


 セシリアとマナが、俺の手を覗き込んでくる。

 他人のスマホ画面を除くのはマナー違反なのだが、この世界でそれを言っても仕方ないだろう。


「いやさ、メールが届いたって。

メールっていうのは、えーっと、スマホとスマホで送り合う手紙みたいなもので」


「まあ! カイル様にお手紙が届いたんですか?

読んでみたらいいじゃないですか!」


「簡単に言うなあ」


 俺はちょっと、メールを開くのを躊躇ちゅうちょする。

 というのは、メールは俺が話した通り、スマホ同士の間で送られるものだ。

 場合によってはPCである場合もあると思う。

 つまり、送る側も何らかの電子機器を使っていないと、メールなんて送れるはずがないのだ。


「えっと、つまりカイルくん。君にメールっていうのを送れるような、君と同じものを持った相手がいるかもってこと?」


「そう言うこと。でも、迷ってても仕方ないよな。開くぞ!」


 スマホを起動する。

 俺が使っているメールは、フリーブラウザ、グググール付属のソフト、グググールメールだ。

 同年代の連中はSNSでバンバン会話してたけど、俺はそんな仲間はほとんどいなかったしなあ。


「お、来てる来てる」


「来てますか?」


「んー?」


「カイルくん、これなんて書いてあるの?」


「こらこらこらー! 三人とも、俺が見えないから!」


 ラスヴェールの道端で、女子三人にぎゅうぎゅうに詰められる俺。

 興味津々な彼女たちがスマホを覗き込むので、自然と俺は押し出されてしまう。

 ええい、みんな日本語を読めないのに!


「あ、読めてきたかも」


「そうですね!」


「ええっ!?」


 エノアとセシリアがそんな事を言い出した。

 読めるって、どういうことだ!?

 いや、もしかして……。


『勇者カイルがフォローした英雄姫は、勇者の権能を共有することができます』


「うわーっ、いきなり喋ったぞ!」


 驚くマナ。

 セシリアとエノアも、前触れ無くヘルプ機能が喋りだしたのでビクッとしたな。


「そうか、ということは、二人ともメールが読めるんだな」


「はい。えっと、挨拶から始まっていますね。はじめまして、勇者カイル。わたくしは英雄姫ナディアです……って」


「へえ、ナディアからのメールなんだ……………………って、ええーっ!?」


 今度は俺が驚く番だった。

 なんだなんだ!?

 一体どうして、いきなりナディアからメールが来るって言うんだ?

 いやいや、よく考えてみよう。

 ナディアが旅をした後を、俺はブログという形で追体験していた。

 ということは、彼女は何らかの手段で、ネット環境のようなものに親しむことができていたのかもしれない。


「ちょっと三人とも、どいて。俺が読むから」


 どうにか彼女たちをどかして、俺はメールに目を通した。

 全文を読むと、こうだ。



“ はじめまして、勇者カイル。わたくしは英雄姫ナディアです。”

“ こうしてあなたにお手紙を送るのは不思議な気分ですわね。”

“ 当主ルシフェルが持つ、時間に干渉する力を使い、未来のあなたのことを知りました。”

“ これを読まれている時、わたくしはきっと死んでいるでしょう。”

“ ラスヴェールが、わたくしにとって最後の地になりそうです。”


「そうか……ナディアは、ラスヴェールで死んだんだな」


 ちょっとしんみりする。

 続きを読んでみよう。


“ ラスヴェールはもう、何回目かわからないくらい利用しているのですけれど、カジノが最高なの!”


「遊んでたのかよ!?」


 しんみりして損したよ!

 ちなみに、セシリアとエノアは俺と文字判読能力を共有しているらしい。

 二人ともメールを読んで、唖然としていた。


「? なんて書いてあるんだ? おれよめねー」


 不満そうなマナ。

 日本語だもんな。


「英雄姫ナディアからの手紙だよ。ああ、手紙って言っても紙じゃないんだけど。

あと、こっちの世界の文字じゃないから読めないかもな」


「なんだよそれー」


 ぶうぶう言いながら、マナは口を尖らせる。

 その様子が可愛かったようで、セシリアが彼女のほっぺたをむぎゅむぎゅ触りだした。

 マナの口から、ぶぶーっと息が漏れて、「やめー」と悲鳴をあげる。


「カイルくん……これってどうなの」


「ナディアの性格だろうなあ。

でも、彼女がメールしてきたってことは、ナディアと接触する糸口が見つかったってことだと思うんだ」


 メール全文を表示してみる。

 上から下までスライド。さらに、相手のメールアドレスを確認する。

 何も無いなあ。

 一方通行のメールということだろうか。

 だとしたら、どうやってスマホはこれを受け取ったんだ?


「よし、困った時のヘルプ機能だな。頼む!」


『何をでしょう』


「こう言う時、融通が利かないな! なんか、具体的な言葉が出てこないんだけど!

えーと……英雄姫ナディアがメールをして来たんだけど、返信できないっぽんだ。

っていうか、これ、どうやらこの場に残ったログらしくて。

ナディアの痕跡を探るようなアプリって無いか?」


『こちらです。ファントム・ミレール。その場にある残留思念を検出し、強度を測ります。今からダウンロードを開始します』


「おっ、助かる。しかし、なんとも安直なネーミング……!」


 分かりやすくていいんだけどな。

 ファントム・ミレールはすぐにインストールされ、アプリ画面にアイコンが出現した。


「どれどれ」


 アプリを起動してみる。

 真っ青な画面に、円形のグラフみたいなのが現れた。

 これを見ながら、右向いて、左向いて。


「カイル様、何をされてるんですか?」


「セシリア姉、離してー!」


 マナを抱きしめたままのセシリアが寄ってくる。


「ナディアを探してるんだ。って言っても、ナディアの残留思念……魂みたいな?」


「だったら、エノアと一緒ですね!」


「へ? うちと?」


 エノアが目を丸くした。

 ああ、なるほど。アスタロトに囚えられていた彼女も、魂だけの存在だった。

 これは確かに、それに近いのかも知れない。


 グラフを見ながら歩きまわっていると、反応が強くなる方向が分かった。

 そちらに向かってみる。

 まっすぐ、まっすぐ。

 右に曲がって、またまっすぐ。

 仲間たちは、興味津々で後ろをついてくる。


 とある場所で、グラフの反応は最大になった。

 グラフを埋め尽くす円が、きらきらと輝いている。


「これは……」


「ホテル、ですね……」


 目の前には、観光客用の大型ホテルがあった。

 ここにナディアの魂がいるってことなのか……!?

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