4 メリーさんのアルバイト

 復讐の為につい先日肉体を得て復活したのだから、当然ながらこれまで働いた経験なんてのはある訳がなくて、だから果たして自分が世間一般から見てうまく仕事を熟せているのか、なんて事は分からない。


 だけど自分なりにうまくやれているのではないかと思う。

 誰かに迷惑が掛からないように。誰かの役に立てていれば良いなと思う。

 そんな風に多少の不安や願望を交えながら、かれこれアルバイトを一か月続けた事になる。

 そしてこの日はその一か月の中でも特別な日だ。


「はい、これ今月のお給料」


「あ、ありがとうございます」


 給料日。これまで一か月頑張ってきた分のお金が貰える日だ。

 それを貰えて少し安堵する。

 別にそのお金が無いと生きていけないとか、そういう事ではない。

 本当にありがたい事に、将吾が全部助けてくれているから。

 ありがたい事に今日も自分は空腹で動けなくなる事も無く、こうして一日を過ごしている。

 だからそういう事じゃない。


(良かった……これで将吾にお金を返せる)


 色々と立て替えて貰っていた。

 返さないといけないお金があった。

 だからこそ……自分が復讐を終えていなくなる前に、それを返す事ができそうで良かった。

 そしてそれを返した上で……少し位恩返しみたいな事だってできるだろう。

 そうやって思い描いていた、やりたかった事ができるようになり心から安堵できた。

 そんな風に安堵していると、雇い主である喫茶店のマスターが心配そうに言う。


「た、確かにウチは特別繁盛している訳じゃないけど、ちゃんとお給料は出せるよ!?」


 どうやら給料が出た事そのものに安心していると思われたらしい。


「ああ、いえ。そういう事じゃないんです」


 この一か月で段々と慣れてきた敬語でその勘違いは正しておく。

 そんな失礼すぎる不安は抱いていない。


「じゃあ……ああ、そうだ。確かメリーちゃんはフリーターって言ってたから……もしかして今日まで結構生活厳しかった感じ? メリーちゃん凄い真面目だから言ってくれたら少し位前借だって──」


「いや、そういう事でも無いんです。一人暮らしでも無いですし……その、同居人に凄く良くして貰ってますから。勿体ない位凄く良い思いをさせて貰っていて……だけど私は今まで迷惑ばかり掛けてたんで。でもこれで恩返しができるなって。そう思っただけで……それだけです」


「……そうかい」


 マスターはどこか安心したようにそう呟いてから笑みを浮かべる。


「……本当に優しくていい子だよキミは」


「特別そんな事も無いと思うんですけど」



「特別かどうかは分からないけど……皆そう思ってる。きっとキミの同居人もね」


「そう……だといいな」


 色々と迷惑ばかり掛けている自分に対してそう思ってくれているなら、本当に嬉しいなと。

 どこか祈るように、心からそう思った。

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