第5話 『火の中に棲む王』




「――――ッ!」



 ――火山の内壁から螺旋階段の形をした氷の床が現れ、次々と俺達の進む道を零から創造していく。



「――足を滑らせちゃだめよ!」


 俺を先導する――この地獄のような背景には場違いの白の天使――フィーネが、声を掛けてきた。


「了解! フィーネも気を付けろよ!」


「心配しなくていいわ、私は大丈夫よ!」


 彼女は慣れているのか落ち着いた様子で、まるで舞踊をするかのように金髪を揺らしている。

 眼下が灼熱であるにも関わらず、余裕のある彼女を見て、こちらも落ちまいと足元に留意して駆け降りていく。


「それっ!」


 腰にある刀の鞘を掴み、いつでも抜刀できるように準備をしておく。

 翼竜の住処はこの中にあるはずだが――。


「――トオル、見つけたわ! あそこよ!」


「どこ!? ……ん、あそこか!」


 フィーネの指差す方を見ると、確かに対角線上に、不自然に大穴が空いている部分が目に入った。


「……結構下だな。――ってフィーネ、どした?」


「掴まっていて! セラ!」


「ちょ――」


 ――フィーネに抱きつかれたので、何事かと言い終わる前に背中に風圧を感じ、気が付けば火山の空間のど真ん中に俺はいた。


「――――ふっ」


 そのまま自由落下してゲームオーバー――するかと思いきや、さらに追撃の風圧が現れ、空中で俺達のベクトルが変動し、軌道が変わる。


「――――!」


 変わった先の軌道上にあるのは、まさに計算尽くされたかのようにある大穴。

 そこに対して猛スピードで迫ったので危険と判断して彼女の体から離脱する――


「――やば」


 ――と、一瞬態勢を崩しかける。マズいと感じ、着地ではなく受身をする方針に変える。

 結果、俺は体を丸めて地面に転がった。


「あ、あっぶねー。すっげえ荒々しい運転するんだな……」


「――トオルっ! け、怪我は無いかしら? 大丈夫よね?」


「え、ああ、うん。大丈夫だぞ」


 彼女が平然として無事なことに少しプライドが傷付きつつ、伸ばされたフィーネの手を取る。

 すると彼女は俺の手と顔を交互に見合わせ、「いつまで握っているのよ……」と口を尖らせた。


「ああ、すまん。……それよりも今は翼竜だろ? ここが住処で合ってるよな?」


「ええ、確か前に来た時もここだった気がするわ。――む、足音がするわ」


 耳を澄ますと、大穴の続く先――曲がり角の奥から、ズシン、ズシンと重量級の個体が鳴らす音が聞こえた。


「ってことはやっぱここなんだな。……フィーネ、作戦通りいくよな?」


「あの子達がきっちりしていれば、ね。そこは信用しているのだけれど」


 戦いを前に交わす言葉は、これだけでいい。

 後は彼女の戦闘センスと、智略を信じるべきだ。


「行くぞっ」


 刀を抜き、白銀に光った芸術品を晒す。


 久しぶりの出番。

 そのせいか、踊り狂うかのように渇望を満たすための欲望が直に脳髄に浸透し、少し呑まれそうになる。


「落ち着け、俺の相棒……! 今満たしてやるから……!」


 暴れ馬をあやし、気を確かに保つ。

 万が一となれば彼女がなんとかしてくれるという安心が、それを為した。


「トオル、もうすぐ合間見えるわよ」


「オーライ、任せてくれ……!」


 とは言っても、またしてもフィーネが先に進んでいく。俺がその後ろ姿を追って行き、曲がり角を曲がるとそこには――、


「――うわ、まぶしっ」


 ――至る所に積み上げられている金、金、金。

 貴族が好むような宝飾品、輝く貴金類が所狭しと並べられ、これらを集めた者が強者であることを示唆させている。


「――――」


 しかし、違う点が一つ。


 黄金の中に紅蓮のような赤のオーラを身に纏った、人間のさらに上を行く、食物連鎖の頂点に君臨する竜が、そこには待ち構えていた。




※※※※※※


申し訳ありません、次の更新は来週の土曜日になり、これから週一投稿になります。

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