第13話 『森の案内人』




「――と、意気込んだのは良いものの、ゴブリンの巣ってどこにあるんだ?」


「はあっ!? あなた、場所を知ってるんじゃなかったのかしら!?」


 そうは言われても、渡されたのは簡易的な地図だけなのだ。詳しい場所は一切書かれていない。

 なので当たって砕けろの精神で、道中目に入った良さげな薬草を毟りながらぶらついていたのだ。

 それに加えて、ここは歩いても風景が全く変わらない森の中。結果、どの辺りを歩いているのかすら分から無くなってしまった。


 ……あれ、これもしかして俺達迷子じゃね?


「この地図にそんな詳しい場所なんて書かれてないんだよ……。というか、何も聞かずについて来たお前もお前だろ」


「あなたを少しでも信用してしまった私が馬鹿だったわ……」


 流石にこれは理不尽なことを言ってしまったのかもしれない。反省する。

 悪いのは全部この親切心の欠片も無い地図のせいだ。こんなんだから誰も受けようとしないんだよ、などと心の中で愚痴る。

 まあでも、狩りをしていた村人がゴブリンと遭遇して急いで逃げ帰ってきたのがきっかけらしいので、正確な位置についての情報が無いのは仕方ないかもしれないが。

 すると、フィーネリアが「まったく、仕方ないわね」と前置きして、


「そういうことなら任せるといいわ。――出てきて、セラ」


 彼女がそう呼びかけると緑色の光の玉が出現した。精霊だ。

 相変わらずふわふわ浮いている。毎回思うのだがどこから出てきているんだろう。実に不思議である。


「この辺りのゴブリンの巣の場所を教えてほしいの」


 親しみを込めた表情で、緑の光の玉にそう尋ね出した。

 どうやらこの精霊に場所を聞く算段らしい。そんなソナーみたいなことができるのだろうか?


「精霊にゴブリンの巣の場所なんか聞いても意味あるのか?」


「――えっ? あなた、『精霊語』が分かるのかしら!?」


 気になったので聞いてみたのだが、仰天した顔で質問を質問で返された。精霊語とはなんぞや。


「精霊語って何のことだ?」


「…………。精霊と会話する為の特別な言語のことよ。……精霊に慣れ親しんだ人にしか理解できないはずなんだけど……」


 同じ言語のように耳に入ってきていたが、どうやら違う言語らしい。確かに言われてみれば違う言語のように聞こえなくもない。分からんけど。


「もう、何をされても驚かないわ。今に始まったことじゃ無いもの……」


 真面目な顔でそう言うが、あんたさっき驚いていたけどね。言わないでおくが。

 まあ、その精霊語とやらを理解できる原因は大体見当がつく。

 この国で一般的に使われている言語も初見で全部理解出来たし、恐らくは神様的な力が働いているんだろう。推測に過ぎないが。


「で、精霊さんはどうお答えに?」


「……ええ、向こうの方から気配を感じると言っているわ。確かに、あっちの方の森は騒がしい感じがするのよ」


 そう言って彼女は後ろの方を指差す。

 って、俺達が歩いてきた道じゃないか。どうやら気付かずに通り過ぎてしまっていたようである。マジか、無駄足になってたのか。


 ほんの少し後悔するが、今は切り替えて前を向こう。切り替えは大事だ。メソメソしていても仕方がない。


「じゃあナビさんの誘導に従うか」


「――っ! 変な名前を付けるんじゃないわよっ! この子はセラって言う名前があるのよ!」


 俺が勝手に命名した『ナビさん』という呼び方に彼女は不満な様子だ。


 だが、当の精霊さんは正反対に少し光量を強くして『任せなさい』と、上機嫌に応答してくれた気がした。



 △▼△▼△▼△



「――ん?」


 ナビさんの導くままに進んで行っていると、俺達を監視しているナニカの気配を感じた。

 視線を感じるとか、元の世界で言ったら笑い者になること間違い無しの台詞だが、確かに感じる。これは間違いない。


「どうしたのよ?」


「……多分、誰かに見られてる」


「――っ、どこからかしら?」


「あっちの方」


 視線の出所であろう草むらを指差す。

 少なくとも、その視線に良い感情は感じられない。含まれているのは害意、敵愾心、といえるだろうか。

 俺達に仇なす敵性生物と捉えて良いだろう。


「おらっ」


 なので気配がする草むらの方に足元に落ちていた石を投げつけて確認する。

 投げた石は綺麗な放物線を描き、寸分違わず目標に接近していき――、



「ギョエッ!」



 ――当たった瞬間。人間とは思えないような耳障りの悪い声が響いた。え、正直本当に当たるとは思わなかったぞ。


 すると、恐らくその気分の悪い声を出したであろう者が草むらから姿を現す。


「……あいつがゴブリンか」


 出てきた生命体の特徴は、体色は薄い緑、人型で、背丈は大体人の子供程度だろうか。非常に醜い容貌だ。汚い布を腰の部分だけ纏わせ、棍棒を片手に持っている。

 端的に言って、物凄く不快感を感じさせる見た目だ。


 そしてソイツは、絶賛その濁っている黄色の瞳に憎悪の感情を入り混じらせてこちらを絶賛睨み中である。あの赤髪の子に比べるとマシだが、それでも怖い。


「あ、逃げた」


 いつ襲ってくるのかなと身構えていたが、投げつけた石をこちらに放り投げ返してから、そいつは踵を返して逃げ出してしまった。

 魔力が漏れているという訳でもないのに、何故だろう。


 ……なんか嫌な予感がするが、一応追ってみよう。初めての獲物だしな。


「追うぞ」


「……なんだか嫌な予感がするわ」


「それは同感」


 彼女も同じ事を考えていたらしい。ゴブリンは知能が低いため、獲物を視界に捕えたら、すぐに襲ってくるものと聞いている。

 だというのに、さっきのゴブリンはその習性に当てはまっていないように思えた。


 だがまあ、注意し過ぎることは無い。こちらにはSランクのエルフもいる。警戒しながら追えば大丈夫なはずだ。



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