正しい遠さで

作者 夏野けい

愛する人の息が、あなたの命を奪う世界。そこで何を選び、どう生きるのか。

  • ★★★ Excellent!!!

他者の呼吸はやがて毒になる。三歳と、およそ十二歳。二つの壁を持って、他者は永遠に顔を晒すことの叶わない相手となる。

まずこの設定に唸らされます。

中学生に上がる頃まで、焦るように他者と関わり、そこで関わりを持つことができた相手の毒は自分を脅かさない。つまり、幼少期に培った閉ざされたコミュニティの中で生きていくことを正道とされた社会。

そこで生きる様々な人の、悩み、生きづらさ、孤独、そして愛情が丁寧に描かれた作品です。

どのエピソードも、私たちと違う環境にありながら、とてもリアルです。ああ、わかる。その気持ちはどうしてかわかる気がする、と何度も頷きました。

マスク越しにしか交わせない会話、隠された口許が覆ってしまう本心は、どこか今この瞬間の社会に通じるものを感じます。

ひとりひとりの心情を、とても深く見せてくれて、またそれぞれのエピソードのキャラクターを糸で繋ぐように物語は展開していきます。

エピローグでは、ああ、この人はここに辿り着いたのか。そして、この人は未来を開いていくのか、と。閉ざされていこうとする世界を切り開く確かな力を感じる素晴らしいラストです。

今だからこそ、読んでほしい。そんな物語です。

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