正しい遠さで

作者 夏野けい

107

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★★★ Excellent!!!


大人が自らの内にある毒を吐き出すのを防ぐためにマスクをした世界。
『他者』とは毒で殺し合ってしまうから、子供のうちに色んな人と触れ合って『他者』ではなくす。
それが人間が毒を制するために見付けた生き筋。

それは現状にも重なるし、この先の未来にも感じます。
読んだ人の中には、わたしのようにコロナウイルスを彷彿した人もいるんじゃないでしょうか。

小説の中も、決して明るい世界ではないですが、それでも希望を感じさせます。
現実も、コロナに怯える日常の傍らに、家族や友人。大切な人との時間が大切に思えるように、キャラクターたちも選択し、毒のある世界で日常を大切に生きていこうとします。

世界を変えよう!というお話ではないですが、今ここにある小さな幸せを大切にしようと思えるお話です。

★★★ Excellent!!!

「緩急がない」って意味じゃないですよ。緩急含めてクライマックスなんです。
何言ってるかわからない? わからないですよね、私にも分かりません。クライマックスって言いたかっただけじゃないかと疑心暗鬼になるほどです。
というよりですね、余白ならぬ、語彙力が足りないんですよ、この作品を語るには。

端的に言えば「群像劇」なんです、群像劇。でも、正直ここまで見事に、緻密に構成された群像劇は商業含め、正直数えるほどしかお目にかかったことがありません。一人一人の行動がどこかそこか別の人たちに関連する。何かのアクションが遠くに及ぶ。バラバラの物語が丹念に丹念に丹念によりあわされていく。

「他人を殺してしまう【毒】」が物語の背骨としてある以上、当然ぱーっと明るい物語になるはずもないんです。が、その中で真摯に一所懸命に生き、或いは現状を打破しようとして懸命に動く人たちがいる。気付けばがっつり読み込みモードに。そのくらい引き込まれる。そのくらいのパワーのある文章が、一気呵成に、そして怒涛のように迫ってくるんです。「圧倒的な描写力」というのは、本作のためにあるんじゃないかというくらいのクオリティなのです。

作中に漫画が登場します。いわゆる作中作という奴なのですが、これが本当にすごい威力を持っていて、もう頭の中がクラクラするほどのめり込みました。多分、読了者さんはほぼそうなんじゃないかなと思うくらい。

読まれてほしいなぁ、こういう作品をしっかり読んで欲しいなぁ。
……そういうことも思います。

こんなレベルの作品が無料で転がってるなんて、カクヨムってのはつくづく恐ろしいところだと思います。

とにかく、本作は「小説を読みたい」と思っている方全てにおススメしたい作品です。
ぜひにぜひに。

★★★ Excellent!!!

まず、言わせてほしい。
今この時代にこの作品が評価されないなんてあり得ない!絶対に今読まれるべき作品だと思います。

本当に、すごい作品なんです。
読んでいる最中、読み終わった後、すごい、すごい、すごい。すごいの一言が何度も頭を過りました。webの作品を読んでこんなに感動したことは今までなかったかもしれません。それほど私はこの物語に惹きつけられ、魅了されました。

この物語の舞台は、人々の息が「呼気毒」というものとして認識され、自分の息が他人の毒になってしまい、他人の息が自分の毒になってしまった世界。
三歳までに出会わなければ、身近な人までも毒になってしまい、十二歳までに出会わなければ他人がみんな毒になってしまう。
遮毒・防毒のため外出する時はマスクは必須で、それがなければ命の危険に晒される。

今の現実と重なる部分が多くあり、登場人物が感じている息苦しさ、窮屈さに共感を覚えます。そんな中でもそれぞれの道を模索し、希望を見出だしていく姿は、まるで現実に生きている私たちにこれからの生き方を示してくれる指標のようだと思いました。

群像劇としているところもとても良い仕掛けになっていて、たとえ一人ひとりが出会うことはなくても、その人たちはいろんな形でつながっていて、毒で線を引かれていても世界はつながっている、あなたは一人ではない、と暗に伝えてくれているようでもありました。

さらに、設定を支える流麗で美しい筆致が素晴らしいです。海の香りに、雨粒の輝き─どれもが鮮やかに清らかに脳裏に浮かぶ情景描写。ジレンマ、優しさ、強さ─人間の生々しくもひたむきな感情表現。全てが巧妙に研ぎ澄まされていて、その文章をなぞっているだけでも心が潤います。

絶対に今、読むことをお薦めします。息苦しい日々に荒んだ心にきっとひとつの救いや答えをくれるでしょう。この作品が多くの人の目に触れることを心から願い… 続きを読む

★★★ Excellent!!!

吸う息と吐く息、発する声と聞く声。
見る側と見られる側、触れる感触と触れられる感触。
私達は日常これらを意識せず、シームレスで境界のないものとして生きています。
今の時代を共有して生きるという意味においては、私と貴方にさえ境界はないと言えるかもしれません。

そこへ例えば、死に至る毒という不可避の崖によって、あるいはマスクという象徴によって越えられない境界が生じたとき、私達はどうにかなってしまうのでしょうか。

熱が出ると、身体があることに気が付く。
鼻がつまると、今まで呼吸をしていたことが解る。
そんな歌が思い出されるように、声にさえ境界がある世界では何もかもが異なって感じられるのでしょう。
過去と現在と未来にどうしようもない断絶が生じたとき、私達の思考は巡り、感覚器は鋭敏になり、マスクの隔たりを嫌でも意識させられるのでしょう。

断絶の末に感じること、選ぶもの、存在するものは何か。
本作は、今読まなければなりません。
隔てられているからこそ、畏れ、うらやみ、愛し、意思を持つ。
越えられない崖を目の前にしてなお、人は繋がりによって希望を見出だし、技術によって橋を架け、意思によって明日へと進む。
そう描かれた人々の姿は、これまでと何一つ変わらない私達自身ではなかったでしょうか。

本作が今、読まれることを願ってやみません。

★★★ Excellent!!!

他人は毒だ。
呼吸毒というものが蔓延しこれまでのように他者と係わることができなくなった近未来。社会は大幅に変革を遂げた。
例外として幼い頃から親しく係わっていたひとは毒ではない。だからその決められた係わりのなかから伴侶を捜して家庭を築くというのが常識となった。「安全な社会」という閉塞した箱のなかに押しこまれて、呼吸困難になったひとびとの群像劇――

臨場感、緊張感、安心感、解放感、喪失感、危機感、情感、質感。
そうしたものを体感させてくれる小説は数多あれども、ありありと《距離感》を感じさせてくれる小説というものはめったにあるものではないと思います。こちらの小説は人と人の距離感を細やかに拾いあげ、書きあげ、物語のなかに落としこんでいます。
家族との距離。他人との距離。親しい特別な誰かとの距離。わたしとあなたの距離。わたしと社会の距離。それらは単なる物理の距離だけではなく精神の距離、そうして影響の距離というものも含まれています。
みずからの選択で影響を及ぼせる距離。血縁があり、あるいは産まれたときから知っていても「自分」という箱の外側に位置する「他人」を変えることは難しいものです。他人の集合体である社会もまたみずからの選択で変革するにはあまりにも遠い。まして、呼吸毒によって他人との係わりが難しくなったこの社会ではなおのことです。
だからこそ遠ざかった距離をほんのちょっとでも縮め、腕を伸ばして、選択できる「距離」を拡げようとする、彼らのすがたはほんとうに美しく、ちから強い。
疫病や社会革命という激しい影響に無防備に晒されながら、「それでも」と立ちあがる人間の強さを綴った小説だと、わたしは感じました。強さを書き抜くということは優しさを、切なさを、悲しみを、悩みを浮き彫りにして書きあげるということです。ちっぽけな人間。か弱い「わたし」という個人、「あなた」という個人。されどもそれら… 続きを読む

★★★ Excellent!!!

優しい物語だった、という感想は変だろうか。

ある年齢までを一緒に過ごした人を除けば、全ての他人が毒となってしまう世界。
近付けば死んでしまい、近付かれれば殺してしまう。
他者が毒となる世界で、人は一人ぼっちになるのだろうか。
物語は語り、私たちはその声を聞く。

SFではない。創作上の御伽話でもない。
私は驚いた。そこに描かれていたのは、あまりにもよく知る感情ばかりだったから。

恋愛、友情、嫉妬、再開、決別、約束。
どんなに近くにいられたとしても、その人がくぐり抜けてきた出来事や、胸の内にいる人や、心身を浸してきた感情の全てを知ることはできない。
それでも知りたいと思うこと。支えたいと思うこと。大切な人のこれからを守りたいと祈ること。
それはなんだか、近付くことが叶わない相手にそれでも触れたいと願うことと、とてもよく似ている。

人と人との物理的な距離が開いても、きっと世界は何も変わらない。
大切な人と離れたって私は壊れない。世界は崩れない。私は想われているから。想っているから。一緒にいれなくたって一緒に生きることはできるということを、私はよく知っているから。

夏野さんの物語はいつもこうだ。
泣かされる。優しすぎる。
作中で交わされる会話や、漂う雰囲気や、触れ合った温もりが交差する中から、人が生きることへの愛しさが立ちのぼる。

きっとこの人は人間が好きなんだと思う。
矛盾や愚かさも含めて、その全てを愛しているのだと思う。
私はそういう人が作家になってほしい。

★★★ Excellent!!!

と、こんな煽りを付けても後悔しないくらいの名作です。

物語は現在の世の中を想起させるような設定で、他人の呼気が毒となる世界の物語。

とは言ってもファンタジーではなく、リアルな現代社会の話です。

ある年齢までに一緒に過ごした相手には毒は毒とならず、しかし、一定の年齢を過ぎてしまうと容赦なく他人を殺す毒となる。

そんな設定を最高に活かした各エピソードの数々。
連作形式でおおよそ三話ほどで主人公が変わっていくのですが、それぞれの主人公の心情が静かに、ゆったりと、いつの間にか伝わってきます。

その侵食はまさに毒。
いや、薬なのかもしれません。

完結済みですのでぜひ読んで頂ければと思います。

ぜひ!

★★★ Excellent!!!

静謐という言葉以外に表現が思い浮かびません

それでも物語の核心に触れることができずに、輪郭の外周だけをなぞっているもどかしさがありますが

ひと言ひと言、言葉をよりすぐって紡がれる物語

疫病で人々が触れ合うことに制限がかかっている近未来
学生、看護師……その時代を生きている人たちのオムニバス

背景として描かれていないその世界観にも圧倒される気がします

★★★ Excellent!!!

三歳までに出会わなければ、わたしはあなたにとって毒になる。
十二歳までに出会わなければ、あなたはわたしにとって毒になる。

他人の呼吸が毒になる世界。
限られた人としか、素顔を晒して、本当の声で話すことができない。
他人との距離が明確になった世界は、生き苦しい。

壮大な設定が根幹にある本作ですが、描かれるのは繊細な、今も変わらぬ人間の心そのものです。
他人との距離が遠くなっても、遠くなったからこそ、浮き彫りになる感情。
感情の行き場がないからこそ、一人称で語られるそれらは深く私たちの胸に刻まれます。

作者自身の語彙や知識も豊富で、それらを用いた鮮やかな表現が、また物語を引き立たせています。
美しいと思うし、切ないと思う。その感情がなんとなくわかると思うし、彼らの苦しみが直接胸に刺さってくる。
感情の波に飲まれ、結局は言葉を失い、「ああ、すごい」としか言えない。エモい、という言葉がこれほど当てはまって、役に立つのは本作が初めてです。

長々と書きましたが、言いたいことはひとつ。
読めばわかるから、読んでください。きっと、賞賛の言葉すら言葉を失います。

★★★ Excellent!!!

今日日の情勢にほんの少しのマスクと毒を足してできる世界に生きる、沢山の人々。
この作品はそれを描いています。
それぞれには事情があって、想いがあって、そういったものたちの連なりが世界で、この作品なんだと思わずにはいられません。

僕は途切れ途切れに読みましたが、キャラクター同士の繋がりを俯瞰するためには一晩か一日か、もしくはメモなどとりながら読んでみた方がいいかもしれません。
そうすればもっと、エモーショナルにこの作品を感じられることだと思います。

★★★ Excellent!!!

 2020年の春に広がりはじめたコロナウイルスによるパンデミックは、私たちが「あたりまえ」と思っていた日常を一変させました。今までごく普通にしていた、会食、旅行、イベントなどには制限が課され、人々は口元を覆い、触れあうことを控えねばならない。
 本作は、そんな「今」に戸惑う方、順応しつつある方、孤独を感じてつらい気持ちになっている方……、いろいろな立場や思いを持つ方々の心に、間違いなく何かを残してくれる作品です。

 ウイルスより強力に確実に他者を殺す「呼気毒」。三歳と十二歳という線引きで、人は共に過ごせる相手が決まってしまう。耐性のある相手でなければ、素顔で触れあうことも、本当の声を聞くこともできない。
 そんな風になってしまった世界で生きる人々の、願いや想い、孤独と愛を描いた、短編連作の群像劇です。

 各章の主人公たちは、年齢も立場も違い、呼気毒に対する向き合い方もさまざまです。一人一人の心情が丁寧に描かれているので、それぞれの抱える悩みや孤独が胸に迫ってきます。
 各章は独立した短編として読めますが、細い糸で綴じられるように、誰かの物語が別の物語へとつながってゆく、そんな構成です。

 誰かの主観が、他の誰かの視点によって塗り替えられる。誰かの孤独は、他の誰かにとっては憧れ。叶わぬ想いに身を焦がし、あるいは孤独に溺れそうになり、美しく見える死を願いながらも、誰かが灯す光に救われる。
 そういった繊細な心の機微が、丁寧でやわらかな文章と瑞々しい描写によって脳裏に広がり、気づけば没入しています。

 人によって共感できる主人公が違ってくると思いますが、どの人物も懸命に今を生きていることが伝わってくるので、読後はとても爽やかなものでした。
 完結しており、全体の長さも文庫本一冊程度です。ぜひ、ご一読ください。

★★★ Excellent!!!

他者の呼吸はやがて毒になる。三歳と、およそ十二歳。二つの壁を持って、他者は永遠に顔を晒すことの叶わない相手となる。

まずこの設定に唸らされます。

中学生に上がる頃まで、焦るように他者と関わり、そこで関わりを持つことができた相手の毒は自分を脅かさない。つまり、幼少期に培った閉ざされたコミュニティの中で生きていくことを正道とされた社会。

そこで生きる様々な人の、悩み、生きづらさ、孤独、そして愛情が丁寧に描かれた作品です。

どのエピソードも、私たちと違う環境にありながら、とてもリアルです。ああ、わかる。その気持ちはどうしてかわかる気がする、と何度も頷きました。

マスク越しにしか交わせない会話、隠された口許が覆ってしまう本心は、どこか今この瞬間の社会に通じるものを感じます。

ひとりひとりの心情を、とても深く見せてくれて、またそれぞれのエピソードのキャラクターを糸で繋ぐように物語は展開していきます。

エピローグでは、ああ、この人はここに辿り着いたのか。そして、この人は未来を開いていくのか、と。閉ざされていこうとする世界を切り開く確かな力を感じる素晴らしいラストです。

今だからこそ、読んでほしい。そんな物語です。