第10話 ホストと付き合ってることがバレたらしい。


月曜日の朝は憂鬱だ。朝の一服を終えた俺はエレベーターを使わず、非常階段でオフィスに向かった。20代半ばになって太り出したという友人の声をちらほらと聞くので、日常のこういう小さな運動を心がけるようにしている。



自分のデスクにカバンを下ろすと、右手に持っていた紙袋から中身を取り出し、俺より早く出勤していた神田日奈子のデスクに向かった。



「近場なのにどうかとは思ったんだけど、これ一応、島のみんなに土産っつーか……。とりあえず、いい感じに配っといてもらえないかな?」



そう言って、水族館にいる魚たちをあしらったクッキーの詰め合わせを差し出すと、パソコンの画面から顔を上げた彼女は一瞬で目を輝かせた。



「わ~ありがとうございます~!相川先輩やさしいなあ。皆よろこびますよ!!」

「なんかふつーのクッキーっぽいけどな。頼んで悪いから、余った分は神田がぜんぶもらってくれ」



神田は、えーいいんですか?これ結構人気なお菓子なのに~!と言って無邪気にはしゃいだあと、ふと好奇心に駆られた目をして、質問をぶつけてくる。



「ていうか先輩、誰と水族館行ったんですか?」

「か、っ!!」



なぜ彼女と言いかけてるんだ、俺は。

へんなくらげのぬいぐるみを手にはしゃいでいた、スバルの笑顔が脳裏に蘇る。



「え?!彼女と行ったんですかぁ?!」



耳ざとく聞きつけた山口が、わざわざ向かいのデスクから会話に割り込んでくる。俺はため息をつき、頭を抱えた。



「………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………まあそんな感じ?」

「いや、沈黙ながっ!」



突っ込んだ山口に、そんなこたいーからお前は原稿に集中しろ!と喝を入れる。神田はいかにも女子らしく、きゃー!と言って喜びはじめたので、俺は詳細を詰問される前に自分のデスクへ退散した。



恋人いない歴が長かったせいか、完全に後輩たちに面白がられてしまっている。わからなくはないがそっとしておいてくれ……と思いながらパソコンに目を向けると、南支社から伝言です、出社ししだい折り返してください、という内容のふせんが事務によって貼り付けられていた。



「おい山口、おまえ、南支社の月島さんの内線番号ってわかる?」

「あ、わかりますよ。待ってくださいね。鈴木~」



山口の隣の席にいる鈴木という女子社員が把握していたらしく、俺のデスクまで来て教えてくれた。



「相川先輩、番号これです」

「ありがとう。俺、月島さんって名前は知ってるけど喋ったことないんだよな~。俺の少し下だっけ?男だよな?」

「そうです。私は二回くらい会ったことあるんですけど、来月から始まる雑誌あるじゃないですか。あれで、こっちに手伝いに来るみたいですよ」

「へえ。どんな人なの?」

「どんな……えーと、カッコいいです」

「顔の話はしてねえよ」



鈴木が真面目な顔をして言うので、思わず笑ってしまった。

来月から新しい仕事が始まる。今年はスバルと付き合ったり、哀子たちにそのことがバレたり、年明けからずっとバタバタした印象があるが、仕事は仕事だ。



頑張ろう!!と、心の中で気合いを入れた。


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