第15話 『終わった工場』の中で

「……工場?でかいですね」


 一台のトレーラーが誠の乗る車とすれ違う。そこにはまるでトイレットペーパーのような加工済みと思われる金属を積んで走っていく。


「ここは東都の西、35キロにある『菱川重工豊川工場』だ」


 ランは少し得意げにそう言った。


「『菱川重工豊川』?なんでそんな工場に?」


 ぼんやりとした意識のまま誠はそうつぶやいた。


「ったく……寝ぼけやがって……知ってんだろ?東都内陸工業地帯の最大の工場って言ったらここだ。『菱川グループ』ぐれー、ガキでも知ってんぞ?」


 ランの言葉にようやく誠は周りの工場群が何者か理解した。


 東都共和国の有力財閥『菱川グループ』の重要企業『菱川重工業株式会社』。


 その中でも『豊川工場』は東和共和国が地球圏から独立た時から続く、伝統がある工場だった。


「今は……ここの工場のメインの仕事は金属の処理っていう工程なんだと。でかい機械も作ってるが、そっちはあくまでついでだな。海沿いの新しい工場で作った方が輸送コストが安くつくかんな……当然と言えば当然か」


 誠はランの言葉につられて外の工場群を眺めた。


「運んで来た金属を処理して軽い加工を施した後、コンテナに積んで海沿いの新設工場で最終組み立てをやるんだそーな。オメー『一流理系単科大学』の工学部だったよな?そんなこともわかんねーのか?社会人失格だな」


 一応、『偏差値教育の申し子』の誠は反論する。


「理工学部です!うちの方が難しいんです!」


 誠はそう言って怒った表情をしてみせた。


「似たようなもんじゃねーか。なんでもいーんだよ」


 そういうとランはため息をついて続けた。


「つまりだ、コンテナに載せるってことは、当然大きさに制限があるわけだ」


 そこでランの口調が少し悲しみを帯びてきた。


「はっきり言うと、『工場』としてはここは『終わって』るんだ」


「終わってる?」


 経済に全く疎い誠はランの言うことがわからなかった。


「花形の最終製品出荷なんて諦めた、ただのでっかい部品工場。その原料も素材企業から買うしかないから、金属系や化学系の会社からの仕入れ素材の値段を決めることすらできない。でっかい町工場。それがここの本当の姿だ


 ランの指摘を聞いて誠は改めて窓の外を見回した。


 確かに工場の建物はかなり古びたものばかりだった。その中には明らかに長いこと使っていないことが分かるような朽ち果てた建物すらある。


「輸送手段が陸路だけ。しかも、周りが新興住宅街で渋滞ばかりでトラック輸送もアウトだったらもう終わるしかねーだろ?そんな工場。どうだ、アタシは社会や産業にも通じてんだ。『勉強』しな……もっとな」


 ランは静かにそう言った。ランの言う通り、巨大な灰色の建物には人気が無かった。多くの建物の窓は真っ暗で電気がついていないように見えた。


「終わった工場……」


 誠は周りのかつては活気にあふれた、その大きな搬出出口からして、何か大型の機械を作っていたらしい暗い生産ラインの入っていただろう建物に目をやった。

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