ちっちゃくてかわいい子に与えられた『勤務地』と『任務』

第14話 『夢』と『現実』

 誠にも初対面の上司の車で、胃の内容物を口から出すというわけいかない、と思うぐらいの常識はあった。


 誠は車が動き出すと錠剤を呑んで眠った。


 その錠剤は当然、『乗り物酔い』の薬である。


 誠はすぐに眠りについたので、かわいい上司の前で醜態をさらさずに済んだ。


「あの……」


 いつの間にか眠っていた誠が目覚めた。薄曇りの空、窓ガラスの内側に結露が見えることから、外の湿気はかなりのもののようだ。


 真夏。8月の東都。曇っていても30度は軽く超える。蒸し暑さ想像して誠は汗をぬぐった。


 東都宇宙軍の本部地下駐車場で眠りについて、気が付いたらこうして『かわいらしい中佐殿』の高級外車の中である。外を見る気分にならなかったので、とりあえず伸びをして、『可愛らしい萌え萌えロリータな上官』の座っている座席の後ろを眺めた。


「やっと起きたか……よく寝てたんで、声を掛けそびれた」


 ランはそうつぶやく。誠は車の外を見た。巨大なコンクリートの建物が見える。すれ違うトレーラーはには何も積まれていないものばかり。車中に目を戻し、モニターを見た。そこにはただ黒い画面があるばかりで、何も映ってはいなかった。


 誠の意識はまだ夢の中にある。


 なぜか、誠の夢の中では、ランはかわいいドレスを着た『戦う魔法少女』だった。


 バックミラー越しにランを見る。特に出会った時と同じように、ちんちくりんな女の子は余裕の表情を浮かべていた。


「おはようございます……クバルカ中佐……ここはどこですか?」


「寝ぼけてんのか?ここはオメーの寝言で何とかつぶやいてた『魔法世界』じゃねえ!『現実』見つめろ!周り見ろ!窓の外みりゃーどこかわかるだろ!状況見ろ!察しろ!ここがどこかは外をみりゃわかる!」


 ランに言われて周りを見た。そこには灰色の巨大な建物の群れが続いていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る