240話 カイトが過ごす場所



 この街には孤児院があった。そこなら……。


「……かいとさん、今なんて?」


 俺の呟きが聞こえたのか、セオトさんが俺の顔を覗き込んだ。それに続いてコウさんとミフネさんもこちらへ目を向ける。


「こ、この街には孤児院があったと思うんですけど……」

「……まさかとは思うけど、君がそこに行けばいいって言いたいのかい?」

「は、はい……」


 そう答えると、彼らは再び目を見合わせた。


 あれ……? あまりいい反応じゃないなぁ……。


 その反応に疑問を抱き、なぜこのような事を思いついたのかを説明する。


「僕が孤児院で過ごせば、お金の事も心配ないし……ポチだって、僕がこの街にいるなら総一郎さんの事見張ってても大丈夫かなって……」


 僕に何かあっても、ポチは移動するのすごく早いしきっと大丈夫だよね。


「……」


 そう答えても、彼らの表情は晴れない。すると、その理由をポチが教えてくれた。


「主人様、私を含めここにいらっしゃる方々は貴方のことを心配しているんですよ」

「……え?」


 俺を心配……?


「……その通りだよ。正直なところ、その案で史郎君が俺達の依頼を受け続けてくれるんならありがたい限りなんだ。だけど……君はそれで大丈夫かなってさ」

「……?」

「分からないって顔してるわね」

「君、人付き合いが苦手だろう? それなのに、人が……それも君くらいの子供が多く居る孤児院で過ごすだなんて、大丈夫かい?」

「そ……それは……」


 た、たしかに少し心配だけど……きっと大丈夫。


「……」


 それに……俺が今“したい”事は、コウさん達の役に立つ事だと思う。


「ぽちは、僕がこの街にいれば特に問題はないよね?」

「……この街周辺であれば、主人様との魔力の繋がりに問題は起きません。そして、主人様の身に何かが起これば、魔力の乱れを感知し即駆けつける事が可能です」

「そっか……」


 それなら、問題はないね。


 ポチに確認を取り、コウさん達を見る。


「僕なら大丈夫です。ぽちは総一郎さんを見張れるから、心配は無いです」

「……そ、それなら……ありがたいけど……」


 まだコウさん達は心配そうな顔をしている。しかし、目を見合わせ何度か軽めにうなづくと、俺へ目を向けた。


「分かった。……それなら助かる。ぽち君もそれでいいのかな?」

「……主人様がそれで良いとおっしゃるのであれば……」


 ポチはコウさんにそう答えると、心配そうな表情で俺を見た。


「……本当に大丈夫ですか?」

「……」


 ポチが心配なのも分かるけど……俺は……。


「うん、大丈夫」

「……そうですか……」


 きっとこれが1番良いんだ。コウさん達、さっきはポチに見張りをして欲しいって言ってたし。


「……分かりました。では、私は総一郎様の部屋にて見張りを再開しましょう」

「うん、お願い」

「……」


 ……あれ? コウさん達どうしたんだろ?


 ふと見ると、彼らは額に指を当てて悩んでいる。「うーん」と言う声が聞こえて来そうな表情だ。


「コウさん、ミフネさん……ど、どうしたんですか?」


 な、なにかまずい事があったのかな……?


「あ、ああ……そうだね……いや、なんでもない」

「……」


 彼はなにか誤魔化すように答えた。それに対してミフネさんは未だに悩み続けている。


「美音……」

「……ええ、そうね。かいと、今回の事は本当に助かるわ。あと、このお礼は絶対にする」


 ……え……そ、そんなに……?


 思っていた以上の気迫で言われ、思わずたじろいてしまう。お礼なんていいのに……。


「は、はい。えと、分かりました」

「……うん、それじゃあ申し訳ないけど、俺達も都に行く準備をしなければならない。1度街へ戻ろう」


 なんとか話はまとまり、俺たちは街へ向かった。


 だけど……俺、これから孤児院で過ごすことになるんだ……ちょっと不安だけど、きっと大丈夫だよね。

 何も怖いことなんて無いはず。

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