201話 ツンデレの真実 6



「約束、守らないと後が怖いわよ?」


 そう言い残し、ふすまを閉めた。


「……」


 あ、嵐がさった……。


 襖が閉まったと同時に、体から力がどっと抜けていくのを感じた。たとえまた尿意に襲われても動けそうにない。


 そ……それにしても、まさか美音さんにあんな一面があるなんて……すごくびっくりした……。


「……」


 いや、たしかにびっくりしたけど、今はそれよりもこの事を誰かに言っちゃわないか不安だ……。

 “約束守らないと、後が怖い”……と、とにかく、明日からは気をつけないと。



 ー カイトの部屋の前の廊下。


「約束、守らないと後が怖いわよ?」


 そこには、カイトにそう言い残し、部屋を出る美音の姿があった。そして、ゆっくりとふすまを閉める。


「……」


 ふすまを閉めた美音は移動し、柱へもたれかかり、廊下を見渡して誰もいない事を確認した。


(……ああああああああああああああ!!!)


 そして、両手で顔を覆い、その場にうずくまってしまった。その口からは声にならない叫び声が漏れる。


(み、見られた!! 見られた!!)


 覆い隠した顔は真っ赤に染まり、目尻には涙が浮かんでいる。

 カイトの前では落ち着いたように振る舞っていたが、やはりかなり恥ずかしかった。


 そして、そのまま足をばたつかせつつ悶えている。


「……ふぅー」


 一頻り悶え、大きく息を吐いた。起こったことは仕方がない。いつまで経ってもこの調子ではいけないと自分へ言い聞かせる。


 カイトにはあの事を話さぬよう言い聞かせておいた。彼は素直な性格だから、悪戯心で誰かに言う事もないだろう。

 自分はただ、彼が喋ってしまわぬようたまに念を押せばいい。


 そう結論付けた。


「……たくっ」


 ここにいてもする事はない。ため息をつき、自室へ戻るため立ち上がる。

 廊下の奥からはポチ改めて史郎と秀幸の話し声が聞こえてくる。夜も遅いが、まだ2人は飲んでいるようだ。


 最後にと襖を少しだけ開け、カイトの様子を伺う。

 あれだけのことがあったにも関わらず、カイトはすでに寝息を立てていた。


「……あんたが羨ましいわ」


 呟き、襖を閉める。

 もし自分が子供のままであれば、こんな苦労も、そもそも周りに強がって見せることも無かった。

 無理な話であるのは十分に理解していたが、懐かしくも羨ましくも感じてしまう。


 自室へ戻り、布団へ座り込む。ふと横を見下ろすと、功が先ほどと変わらぬ様子で寝ている。


 もしカイトが例の件を功へ言ってしまったら……そんな考えが頭に浮かんだ。


 その時は、考えるのをやめて、素直になってしまうのも……。


「……いえ、それは無いわ」


 強がる自分をうっとおしく感じた事は何度もある。

 しかし、なんだかんだと言いつつ、強がる自分がいたからこそ彼の隣で戦えた事も事実。


「……素直になれないって、やっぱり辛いわね」


 功の寝顔を見つめながら、美音は呟いた。

 夜も更けて月明かりが窓を通って部屋を照らしている。史郎と秀幸の会話する声と虫の心地よい鳴き声が混ざり合う中、各所の部屋にはそれぞれの布団で眠るカイト達の姿。

 そんな中、美音だけは功に寄り添って眠っていたのだった。

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