130話 その後 1



 暗い空間の中で、アルフレッドは目を覚ました。

 体を動かそうにも、なぜか動かない。椅子に座っているのはなんとなく分かる。

 おそらく……自分はその椅子に縛り付けられている。


 なぜ自分はここにいる? 


 覚えている最後の記憶では、買収した盗賊のアジトで資料整理していたはず。

 しかし、そこになにかが襲撃してきて……。


 そこで記憶は途切れた。


 と言う事は、ここは盗賊のアジトなのだろうか。だとすれば、この暗闇はなんだ? 夜なのだろうか。


「おい……誰かいないのか?」


 暗闇に向かって呼びかける。すると、予想と違いすぐに反応があった。

 ドアが開き、暗闇に明かりが差し込む。


「目を覚ましたようだな。アルフレッド」


 そこからは1人の男を筆頭に、4人の男が入って来た。


「おい。明かりをつけろ」


 部屋の中に数本のロウソクの火が灯される。 

 ここは王都にある、罪人を留めておくための部屋……留置所だ。自分も何度か足を運んだことがある。

 そして、ロウソクの明かりに照らされたことにより、その人物が誰なのか判明した。


「国王様……」


 その人物は、アルフレッドが騎士団長として仕える国の国王。ライナ・ラカラムスだった。


「ふむ……」


 しかし、アルフレッドは突然目の前に現れた国王に驚くことはない。平常心を保ち、自分の状況を整理してライナへ問いかける。


「国王様。これは一体どう言うことでしょうか? 私がここに居ることの、説明を求めても?」


 すると、ライナの表情が変化した。

 無表情ではあるものの、怒りを感じる。そんな表情だ。


「ふん……それは貴様が1番良く、分かっているのではないか?」

「はて……身に覚えはありませんな」

「ほう……知らぬとほざくか」


 ライナは一歩前へ出て、アルフレッドを見下ろしながら言った。


「貴様を懲戒解雇とする。王国騎士団第2番隊隊長及び、諜報機関の任。その地位、権利を全て剥奪。お家取り潰し、親族が王都へ居を構えることも許さぬ」

「なっ……!?」

「加えて貴様には……」

「お、お待ち下さい王よ!」


 ライナの言葉を遮り、アルフレッドが叫んだ。


「な、なぜですか!? 私が一体なにを!?」


 あまりに突然のことに、思わず訊き返す。すると、ライナは目線を落とした。


「……自分の右手でも、見てみたらどうだ?」

「……?」


 自分の右手へ視線を落とす。


「……っ!!!!」


 そこには衝撃的な光景が見えた。

 肘辺りから巻かれた包帯。それが、手首の方へ続き、しだいに赤黒くなっていく。


 そして、その手首から先にあるはずの物は無かった。


「なっ……なんだこれはあああああ!!!」


 その理解し難い光景に、叫び声を上げる。 

 おそらく、この惨状はこの目の前にいる者がした事。見下ろす顔を睨む。


「こ、これはどういうこ……」

「『等魔とうまの腕輪』」


 アルフレッドの言葉を遮るように、ライナが言う。


「過去に大魔導師が10個5組のみ制作した魔道具……知らないということは、無いだろう?」

「……っ」

「実は、貴様が腕にはめていた腕輪と、その魔道具の特徴が一致してな……その時、どうしてもその腕輪を外さざるを得ない状況だった。しかし、その腕輪を外すための鍵がどこにも見あたらぬ……」


 ライナは淡々と話す。顔も無表情のままだ。



「だから、物理的に外させてもらった」



 それは、アルフレッドの右手首から先が無い原因を裏付ける発言だった。


「加えて貴様には、王城地下の管理庫から魔道具の無断持ち出しの疑いもかけられている」

「なっ……!? 王よ! それはおかしいですぞ!」

「ほう? なにがおかしいのだ?」

「私は魔術の才に長けた盗賊を拘束し、そのために腕輪を持ち出したのです! 報告書も提出したのですよ!?」

「……ふん、確かにな」


 王都の管理庫には、等魔の腕輪を使用すると言う報告書が残されていた。

 アルフレッドはその事実を盾に、反論する。


「確かに、貴様の言うように報告書はそのように提出されていたな」


 いける……! 


 アルフレッドは口角を上げ、勝ちを確信するような表情を見せる。まさに今、ライナの口から報告書の存在を認める発言を聞いたからだ。


「私に落ち度はありません! ならば、この責任をど……」

「ならば、なぜもう片方の腕輪は盗賊ではなく、“英雄”の腕につけられていたのだ?」


 再び、アルフレッドの言葉は遮られた。


「え……英雄……?」

「英雄を知らぬか? ならばその頭に刻み込め。“国滅ぼし”と呼ばれたブラック・ワイバーンを単独で討伐し、この国を救った『英雄 カイト・グローラット氏』だ」

「っ……な、なぜ……!?」

「ああ、貴様は知らぬのか……」


 ライナは呆れたような目線を向け、とある事を教えた。

 それを聞いたアルフレッドは、驚愕する。


「等魔の腕輪を取り付けられた、英雄カイト・グローラット氏及び“少女”は、昨日さくじつ明朝、王国騎士団第1番隊隊長コウ・ヤマトによって救出、保護された」

「な、なんですって!?」


 記憶が正しければ、カイトは盗賊団のアジトに監禁していたはず。

 しかし、騎士団が盗賊を雇ったという証拠を少なくなるよう、カイトへ恐怖を植え付ける役目は盗賊の男へ任せた。

 まさか、その男がヘマをしたのか?


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