121話 リティアの過去 2
目を覚ました時、2人は見知らぬ森の中にいた。
互いの無事を確かめ合い、ひとまず胸を撫で下ろすも、リティアがパニックになるのにそう時間はかからなかった。
「ああ……どうしようカイ……!」
右も左もわからぬ森の中。そして、飛ばされる直前に聞いた『モンスターに喰い殺されろ』と言う言葉。
これらから、いつどこから襲われるのかと言う不安に襲われ、パニックを起こしていた。
しかし、カイは落ち着いている。
「お姉ちゃん落ち着いて。近くには何もいないよ」
リティアの手を握り、そう言い聞かせる。すると、次第に落ち着いてきた。
だが、不安である事には変わりない。
「で……でも、ここにはモンスターがいっぱいるんでしょ?」
「うん……でも、きっとここは国近くの森だよ」
カイは、自分達を飛ばしたあの大人エルフの言動から、今いるのはモンスターが大量発生している国近辺の森と予想していた。
「高いところから見下ろせば、きっと分かるよ。ついて来て」
「う……うん」
手を引き、森の中を進むカイ。
リティアにとってこれほど心強い存在は彼しかいなかった。
到着したのは周囲と比べても一際大きな巨木。幹には太いツタが巻きつき、螺旋状に伸びていた。
遥か上にある枝からも、地面につきそうなほど長いツタが何本も垂れ下がっている。
「これを登って見下ろせば、きっとここがどこなのか分かるはずだよ」
「え……これを登るの?」
巨木を見上げると、その大きさが伝わって来る。
幹の幅だけでも10メートル以上はある。高さは、雲にかかっているようにも見えなくはない。
エルフの住む国がある土地は、不思議な植物が多く存在している。この巨木もその例外ではない。
諸説あるが、『精霊』の影響だと言われていた。
「大丈夫。さすがにてっぺんまでは登らないよ。他の木よりも高いところまで登れればいいからさ」
「で……でも、こんなにおっきな木……なにか怖いのが住んでるかもしれないよ……」
この森に住むのはモンスターだけではない。
当然のように獣や魔獣もいる。たとえ襲って来たのが“獣”だとしても、幼い2人にとっては充分脅威となるだろう。
そして、この巨木になにも潜んでいないとは限らない。
「……大丈夫。実は、ナイフを隠してたんだ」
カイはそう言うと、着ている服をめくって見せた。
そこにあったのは鞘に入ったナイフ。ただ、子供の体であるカイには、たとえ小型のナイフであろうと比例しない大きさだ。
しかし、リティアはそんな事には気がつかない。
『武器がある』と言う事実に、安堵してしまう。
「いざとなったら、これで戦うよ。お姉ちゃんはこの木の根っこに隠れてて。ボクが見てくるから」
「うん……分かった。気をつけてね……」
指示された通り、リティアは巨木の根の隙間へ潜り込んだ。
カイはナイフいつでも抜けるよう腰に構え、ツタへ手を伸ばす。
「んっ……んっ……」
掴んだツタを数回、力を込めて引っ張ってみる。ビクともしない。これを伝って登る事に支障は無さそうだ。
「よし……」
幹肌へ張り付き、ツタを握って登り始める。
ツタはしっかりしていて、安定して登ることができた。
しばらく登り続け、ふと下を覗いてみる。
「……!!」
気が遠くなりそうなほどの高さ。ツタを握る手に力が入る。
下へ向けた顔を上げ、周辺を見渡す。すでに周辺の木々より高い位置だ。
「……あ!」
突然カイが声を上げた。彼の目線の先には横に長く伸びた『壁』があった。
その壁はエルフの国へ向かうモンスターを、足止めするために作られた防御壁だ。
つまり、あの向こう側にエルフの国がある。
転移魔法で飛ばされる直前の事が頭に浮かぶ。
あの怒鳴っていた大人エルフは、術者へ早くするよう催促していた。
おそらく、変に焦らせた結果、本来の転移先より近くに飛ばされたのだ。
結果的には飛ばされてしまったが、国の近くに飛ばされたことは不幸中の幸いだった。
「あそこにさえ……行けたら……!」
きっと、自分達がいなくなった事に気がついた父親が、捜索隊を出しているはず。
防御壁付近には必ず見張りがいるはずだから、保護してもらえるかもしれない。
そんな期待が膨らむ。
しかし、それにより油断してしまったカイは、自分に忍び寄る影に気がつかなかった。
ギッギィィィイイ!!!
「っ!!」
カイの周囲に数十頭の猿型の魔獣が現れた。
巨木の幹にも、枝から垂れ下がるツタにもいる。囲まれてしまった。
「……くっ」
ツタをしっかりと握り、ナイフを抜く。しかし、ただえさえ不安定でバランスを取れないカイに対し、相手は数十頭の“猿型”の魔獣。
勝てるはずがなかった。
「カイ!? カイィ!?」
「え!?」
下から名を呼ぶ声が聞こえた。
目を向けると、異変に気がついたリティアが隠れていた根の隙間から這い出て、こちらを見上げている。
「カイ! 大丈夫!?」
「お姉ちゃん!! 根っこに戻って!!」
大声で返すも、どうやらこちらの声は届いていないようだ。
すると、リティアに気がついた数匹の猿型の魔獣が、彼女へ向かってツタを降下し始めた。
「っ!!」
このままではリティアが襲われてしまう。しかし、来た時に使ったツタを同じように降くだっても自分がやられてしまう。
どうすればいい!?
焦るカイの目に、地上へ垂れ下がったツタが映った。それを見て、1つの案が浮かぶ。
……迷ってる暇は無い!!
手に持っているナイフを口に咥え、カイはそのツタへ飛びついた。
そして、一気に下降し始める。
「ぐっうぅぅぅぅうう!!!」
摩擦で手が焼ける。そんな痛みに必死に耐えた。
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