109話 紹介 過去 1
「……という事で、召喚したのが……」
「ご両親様、お初にお目にかかります。私はブラック・ワイバーン……主人様より、ポチ・シリウスの名を賜りまりました」
「お、おお……」
「え、ええ……」
ミフネと別れた後、自らが召喚したブラック・ワイバーンのポチ・シリウスを両親へ紹介するべく、カイトは2人を自分の部屋へと呼び出していた。
召喚魔法でポチを召喚した事を説明し、彼を紹介する。それに対し、エアリスとグレイスは困惑の表情を見せた。
「えっと……騎士団長様から召喚魔法を教わって……」
「実際に使ったら、ブラック・ワイバーンを召喚して……」
「それがその人……?」
「……うん。そう言う事」
その返答に更に困惑するエアリスとグレイス。
それを見て、カイトはポチがブラック・ワイバーンである事を証明する事にした。
これから証拠を見せると説明し、ポチの体を構成している魔力の形を変化させる。
するとポチが立っていた場所に、人間サイズのブラック・ワイバーンが現れた。
それを見せられた2人は、驚愕しつつもカイトの言う事を受け入れる。
再びカイトが魔力を変化させると、ブラック・ワイバーンは人の姿へと戻った。
2人はカイトに聞こえない程度の声で話す。
その内容は、安全かどうかについてだった。
「カイト……彼は安全なのか? 何せ、君と戦ったブラック・ワイバーンなのだろう?」
「それは……」
「そのご質問には、私が答えさせていただきます」
グレイスの問いに答えようとしたカイトへ、ポチが口を挟む。
「貴方様のおっしゃる通り、私とカイト様の間には互いに命を奪おうと戦った事実があります。しかし、だからこそ私はカイト様に従うのです。たとえこの命果てようとも、皆様に危害を加えないと誓います」
その返答を聞き、グレイスの表情が険しくなる。
「……それをすぐに信じられるとでも思うのか? お前のせいで大切な息子は何度も死にかけ、恐怖を味わったんだ。どんな理由があろうと、親としてそれを許す事は出来ない」
それは親ならば当然のように抱く感情だった。だが、親のいなかったカイトにとって、グレイスの発言はとても嬉しいものだった。
しかし、ポチの事を考えるとカイトは素直に喜べない。
「今がどうであろうと、息子に手を出した者を息子の近くに置きたくなどないに決まっている」
「……」
グレイスの真剣な語りを、ポチは表情を変えずに聞いている。
「お前にこの気持ちは理解出来るのか?」
真剣な……しかし、険しいグレイスの表情。
「正直に答えさせていただきます。そのお気持ち……理解しかねます」
「なんだと……?」
しかし、ポチはそれを否定してしまった。その瞬間に、グレイスの感情が怒りへと変わる。
「それはどう言う意味だ?」
「そのままの意味です」
「……ふざけるな! それすらも理解出来ないのなら、人の姿だとしてもお前は人殺しの化け物となんら変わらない!」
部屋の中にグレイスの怒鳴り声が響く。カイトはびくりと震えるが、ポチは表情1つ変えない。
そして答えた。
「はい、その通りかも知れません。私にそれを理解する資格はありませんから」
その返答にグレイスはピクリと反応した。
「資格……だと?」
「はい。私には貴方様のような、大切な家族と呼べる者はおりませんから」
「……なに?」
「その様な者に、親と言う立場である貴方様の気持ちを『理解出来る』などと、言える資格は無いのです」
突然の告白に、言葉を失うグレイス。
すると、今度はポチがグレイスへ尋ねた。
「人族の間では、体が黒いモンスターは『魔物』と呼ばれ、恐れられていると聞きました」
「あ、ああ……そうだな」
「ですが私達ワイバーンの間では、体の黒い個体は『強者』の象徴なのです」
「……『強者』?」
「私はそれが原因で、幼体期より同種族との戦闘を強いられました」
言葉を失っている3人へ、ポチは自分の過去を話した。
− 数年前 ワイバーン山岳
ワイバーンの飛び交う山岳の奥地に、1つの巣があった。
その巣の中にあるのは大きな卵1つ。全体的に光沢のある黒だ。
微かに卵が揺れ、ヒビが入り、その中から1匹のワイバーンの幼体が産まれた。
卵と同じく、全身は光沢のある黒。“ブラック・ワイバーン”だ。
そのブラック・ワイバーンの幼体は、親を求めて鳴き声をあげる。しかし、近くにそれらしい個体の姿は無い。
しばらく鳴き続けた後、幼体は親を呼ぶのを諦め、自ら巣から這い出た。冷たい岩が、産まれたばかりの体から容赦なく熱を奪う。
這いずり回り、親を探す。しかし、いくら探しても親らしき姿どころか、他のワイバーンすらいない。
次第に低体温により、体が動かなくなり始める。だが、幼体は必死に這い続けた。
そして、遂に日の明かりを感じた。巣のある洞窟から出たのだ。
その時、幼体の目に日の明かりを背にする大きな影が映る。
大きな翼を羽ばたかせ、こちらを見下ろすワイバーンの成体のオスだ。
幼体は目を輝かせた。そのオスが親と思ったからだ。
だが、その思いは長くは持たなかった。
そのオスが突然、幼体へ向かって火を吐いたのだ。それが直撃し、文字通り燃えるような熱さに悲鳴を上げてのたうちまわる。
幼体は困惑しつつも、必死に自分へ無理矢理言い聞かせた。きっと、これは凍えた自分への救済措置なのだと。
その直後、激痛を感じた。
何が起きたか分からないまま、岩へ叩きつけられる。
その時、幼体は初めて理解した。
今、自分は襲われている。
オスへ目を向けると、咆哮しながらこちらへ距離を詰めて来ていた。
生物は死へ直面すると、生存本能と呼ばれるものが働く。
幼体はそれに従って必死に戦った。
使いこなせぬ翼を羽ばたかせ、まだ力の入りきらぬ口で、自分の何倍もの大きさの生体のオスへ噛みついた。
『なぜ自分は襲われていれてのか』
『なぜこんな事になっているのか』
幼体は死に物狂いで戦いながら、そう考えた。
この幼体は、生まれながらに強力な力を持っていた。凄まじい生命力を持っていた。そして、高い知能を持っていた。
その知能があるが故に苦しんだ。『なぜ戦わなければならないのか』を考え、困惑してしまうから。
結局、その答えはオスを倒しても見つからなかった。
産まれてから数日経った。
今、幼体はとてつもない空腹に襲われている。産まれたばかりの体を酷使して戦った上、ろくに食事を取っていない事が原因。
この数日間、幼体は自分を見つけるなり襲ってくる成体のオスと、戦闘を繰り返していた。
すでに戦闘には慣れ始め、無傷とはいかないものの、うまく立ち回れるようになっている。
そして、今日の戦闘で1つの大きな変化があった。
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