104話 召喚 3



 その魔力の塊へ、人型に近づけるイメージを送る。魔力の塊が次第に人型に近づいてきた。

 だが…


 ……どういう感じの人にすれば良いんだ?


 数々のラノベを読んできて、多くのキャラクターを見てきた。

 しかし読む事に徹してきた俺は、“自分自身でキャラクターを作った”事など、当然1度たりともない。


 このままでは、“かつてブラック・ワイバーンだった人型の魔力塊”になってしまう。

 せっかく召喚したんだ、それは避けたい。


「……決めた」


 意を決して、1人の人物を思い浮かべて魔力塊へイメージを送った。

 イメージ通りの形になったと感じた瞬間、その方向から軽い衝撃波を感じる。


「……どうかな?」


 魔力塊は無事、形を安定させて保っているようだ。恐る恐る目を開けた。


「……おお」


 ポチがいた場所には、1人の男性が立っていた。

 黒髪で赤い目、長身で凄いイケメン。

 そして……頭には2本のツノ。腰からは棘の付いているしっぽ。背には大きな翼が生えている。

 あと、とんでもないレベルのイケメン。


 そのイケメンは、物珍しそうに自分の両手や服を見ている。閉じられている右目には、俺がつけた大きな傷跡があった。


 そう、この男性こそがあのブラック・ワイバーンだ。


 ちなみに、この姿にはモデルがある。

 昔読んでいたラノベには、“悪役令嬢”を扱った物が沢山あった。

 内容は、『ゲームの悪役令嬢に転生してしまったから、シナリオのバットエンドを回避するために奮闘する』と言うものが定番だ。

 そのため、女性視点で描かれる事が基本的で、多くの“イケメンキャラ”が登場していた。


 今、目の前にいるイケメンは、その悪役令嬢のラノベに出てくる“イケメンキャラ”の1人をモデル(丸パクリ)にした。


 確か、そのキャラクターの名前は“アズライト・ライゼクス”。

 その作品内の魔族は悪役サイドだったが、そのキャラクターは魔族であるにもかかわらず、心優しい青年。

 魔族の中でも実力者だった彼は、ヒロインを数々のピンチから救っていた。かなりの重要人物だった。


 そのヒロインは彼に好意を抱くものの、ヒロインを救うために自ら命を絶つシーンは、本当に感動した。

 悪役令嬢物の中では、1番好きだった。

 というか、ラノベのキャラクターの中でかなり好きな方に入る。


 だから、とっさに思いついたキャラクターが、“アズライト・ライゼクス”だったのかもしれない。

 あと、単純に名前がカッコいいのも理由の1つ。


「ちょっと! ブラック・ワイバーンが小さくなったと思ったら、人になったんだけど!?」


 ミフネさんが凄い表情で問い詰めてきた。


「せっ説明しなさいよ!」

「えっと……小さくできるなら、姿も変えられるかなって……」

「……それで、出来たわけ?」

「はい……」


 彼女は頭を抱え、ため息をついた。


「……まぁ、あんただしね」


 彼女はそう言うと、人型のポチに目を向けた。それに応じるように、“彼”も視線を手からこちらへ移す。


「……見たことない作りの服ね。この服は何よ」

「えーと……」


 ラノベのキャラクターをもろパク……参考にしたって言ったって、分からないだろうし……。


「僕が考えました……」

「ふーん……」


 色々と面倒だ。そういう事にしておこう。

 しかし……。


 “彼”の服へ目をやる。


 着ている服はかなり、厨二病感漂うデザインだ。

 真っ黒で至る所にベルトがつけられているて、めちゃくちゃカッコ良い。俺はこのデザイン好きだ。


 だが、それはあくまで“お話の中”でなら、の話だ。現実でこんな姿をしていたら……若干痛いコスプレ感を感じる。


 まぁ……それを着ている素材が良すぎて、着こなしているから問題ないかな…?


「あの服……イカすわね……」


 ミフネさんも高評価だ。なら、大丈夫だろう。


「……で、あんたはこい……“彼”を人として扱うつもり?」

「!。……そうですね……はい。そのつもりです」


 人型ならば、教えればある程度の仕事が出来るかもしれない。

 ワイバーンの姿ならまだしも、人型の“彼”をペットの様には扱いたくない。

 ……ペットってどう扱うか知らないけど。


「……ま、そう言うと思ったわ。今の“彼”は人にしか見えないしね。ツノとか翼とか生えてるけど」


 多分それらは、“ブラック・ワイバーンを人型にする”という目的と、“魔族のキャラクターをパクる”という思惑が入り混じった結果両方の要素が出てしまったのだろう。


 これはこれで好きだけど。


「……人として……ね。きっと、大変よ」


 彼女の真面目なトーンの声が耳に届いた。見上げると、彼女は声のトーンに合う表情を見せている。


「いくら姿形が人に似ていても、いくら言葉を理解しても、こいつはワイバーンなの。人間の常識なんて、当然理解していないわ」

「……」

「例え、あんたの家に招き入れたとしても、必ずトラブルを起こすわ。……最悪、死人が出るかもしれない。それでも、あんたは“彼”を人して扱うのかしら?」


 彼女の言う事は正しい。

 見た目はほぼ人でも中身は……俺を死ぬ間際まで追い詰めた、あのブラック・ワイバーンだ。


 ……見た目と中身は違う……俺みたい。


 何故命令に従うのかは分からないが、危険な事には変わりない。


「……でも、僕は悪くない人に危害は加えたくないです」


 少なくとも、今の“彼”は危険な行動はしていない。

 なら……共存も夢ではないだろう。


「……そ」


 彼女は特に何も反応しなかった。


「……じゃあ、まずは言葉を話せる様にしなきゃね」

「……そうですね」


 しかし、言葉を理解出来るのだ。そう時間はかからないだろう。


「……きっと、その後も大変よ?」

「ええ、頑張りますよ」


 微笑むミフネさんに笑顔で答え、“彼”に近づいた。


「……」


 “彼”は、ただこちらを見ている。


 俺は握手を求めるように、右手を差し出した。

 理解できるかは分からないが、“彼”とのコミュニケーションの初めの一歩だ。


「これからよろしくね」

「……」


 すると、“彼”の右手がゆっくりと上がり、俺の右手を掴んだ。


 握手を理解してる?


 そう思ったのもつかの間、お互いの右手が上下になるように軽く捻られ、“彼”が地面に片膝をついた。


 そして……。


「主人あるじ様に絶対の忠誠を誓います。この命、果てるまで」


 ……ん!?


「「喋ったぁ!?」」


 俺と同時に驚きの声を上げた、ミフネさんの顔を見る。

 その顔は硬直してしまっていた。


「……!? ……!?」


 再び“彼”へ視線を戻す。この体勢は、まさに“彼”のモデルとなった“アズライト・ライゼクス”がヒロインにしていた王子様ポーズだ。


 ……とにかく、また彼女の予想が外れたのは、確実だね。

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