84話 vs.ワイバーン 再戦 1
「喰らえ!」
ワイバーンに上位炎魔術“炎弾えんだん”を撃った。
1つはかわされてしまったが、そのかわした先にもう1つの炎弾が迫る。
しかし、それもギリギリでかわされてしまった。
「っ、ダメか……!」
避けざまにワイバーンがブレスを放って来た。それを瞬間移動でかわす。
俺が出てきた洞窟が、音を立てて崩れてしまった。
ここはすぐ後ろが壁になっている、場所を変えないとまずいかもしれない。
向きを変えて全力で走り出す。ワイバーンもこちらへ向かって翼を羽ばたかせた。
今、なぜ2発連続で撃つ事が出来たのかと言えば、その理由は簡単だ。
1回の炎魔術を2つに分けただけだ。
そうすれば、同時に2つの火球を使えるから“連射”が出来る。
しかし、これで“連射が遅い問題”が解決したわけでは無い。
連射する場合、同じ攻撃をいくつも撃つのだから[1×2]となるが、これは1回を分けているから[1÷2]となってしまう。
そのため、威力も大きさも半減してしまうのだ。
この作戦はさっきのを見るに、このワイバーンには通用しそうに無い。それに当たったとしても大したダメージにはならないだろう。
だが、作戦はまだある。
走りながら収納部屋から“種”を取り出し、地面へまいた。
立ち止まり振り返ると、ワイバーンは大口を開けて迫ってきていた。
ワイバーンが“種”をまいた場所の上を通過したその瞬間、“自然魔法”を使った。
地面から無数の太い“ツタ”が伸び、ワイバーンに絡みついて地面にねじ伏せる。
これは、以前冒険の時に焚き木を集めたものと似たようなものだ。
ワイバーンはツタから逃れようともがいている。しかし、もがくたびにツタが強く食い込んでいるようだ。
「よし!」
すかさず、ありったけの魔力をこめた上位炎魔術“炎弾”を放った。炎弾は直撃し、大きな爆炎がワイバーンを包み込む。
間を空けずに次の炎弾を溜め、爆炎の中へ放つ。
しかし、それが着弾するより一瞬早く、爆炎の中からワイバーンが飛び出して来てしまった。
「っ!」
脱出したワイバーンは空中からこちらを見下ろしてきている。
「……やっぱり効いてる」
ワイバーンの体の一部の鱗にはヒビが入り、黒煙を上げている。呼吸も荒くなっていた。
このまま魔術を当て続ければ、勝てる……?
そう思ったその時だった。
ワイバーンが唸り始め、口から今までの倍以上もの炎を漏らした。
「な、なに……?」
明らかに様子がおかしい。まさか、怒ったのか?
……これは、逃げた方が良いかもしれない。
ワイバーンは今こっちを見ずに、唸り続けている。嫌な予感がする、逃げるなら今がチャンスだろう。
方向を変えて走るが、横目でワイバーンを確認し続ける。ワイバーンはまだ同じ場所で唸っているようだ。
一体何が……。
その瞬間、爆風に襲われ体が浮いた。それと同時に鼓膜が破れそうなほどの爆音にも襲われる。
「うわあああ!?」
あまりに突然の事に対応しきれず、激しく転倒してしまった。
「なっ……!?」
何が起きたのか理解できない俺は、その場で両手をついたまま動けない。目には“異様な”ワイバーンが映っている。
その姿に驚愕した。
「ちょっ……えぇ……」
まず、雰囲気が明らかに違う。
両目からは赤い光が妖々しく、ゆらゆらと揺れていた。
すると、ワイバーンは頭を地面すれすれまで下げた。そのままなにやら震えている。
何をしているんだ……?
そう疑問に思った瞬間だった。
突然、ワイバーンは光線のようなブレスを地へと放ち、そのまま頭を勢いよく空へと向けた。
頭を上げる際に、口から放たれた光線状のブレスが地をえぐりながらこちらへ迫る。
「っ!?」
とっさに横へ飛び、ギリギリで直撃を免れた。
そのブレスにより、ワイバーンの足元から一直線に地面がえぐれてしまっている。
破壊痕は俺が向かっていた方向へ、はるか先まで続いていた。
さっきまでの“ブレスの塊”ではなく、例えるならば、これはまさに“破壊光線”だ。
あんなものに当たれば、きっと跡形もなく消えてしまうだろう。
「遠距離戦は不利……かな?」
遠くから離れて魔術を撃っても避けられてしまうし、そうなると一方的にあの破壊光線を撃たれ続けてしまう。
だが、あえて近づいて戦えば、魔術を当てるチャンスもあるだろうし、直接攻撃も加えられる。
ただ、それをするからにはワイバーンからの直接攻撃や、あの尾の毒針も警戒しなくてはならない。
結局のところ遠かろうが近かろうが、俺が不利な事には変わりないだろう。
「でも、もうやるしかないよね……」
収納部屋から刀を出し、両手で構えた。ワイバーンはこちらへ向かって飛んできている。
大きく深呼吸をし、身体強化をかけてワイバーンへ向かって走り出した。
みるみる距離が縮まっていく。
それに連れて心臓の鼓動が早く、大きくなって行くのを感じた。
“怖い”“逃げたい”“死にたくない”
そんな言葉が頭をよぎる。
「うあああああ!!」
その言葉をかき消すように叫び、自分を奮い立たせた。
助かる道はこいつに勝つしかない。逃げても無駄。死にたくないなら戦え。
自分にそう言い聞かせ、負の感情を消す。
歯を食いしばり、ワイバーンへ全力で飛びかかった。
大口を開け迫るワイバーン。
その口が閉じるより一瞬早く、瞬間移動で自分の位置を後ろへずらす。目の前で上下の牙が、勢いよく音を立てて噛み合わさった。
それを確認し、思い切り頭へ刀を振り下ろした。金属音のような音が鳴り響く。
「かたっ!」
鱗はとてつもない硬さで、刀は弾かれてしまった。
しかし、鱗には刀の跡が残っている。全く通用しないというわけではなさそうだ。
やっぱり、狙うならお腹かな……。
硬い外皮を持つ生き物の多くは、腹部には硬い外皮を持たない事が多い。と思う。
見ると、全てではないが腹部に鱗の無い部分がある。このワイバーンも例外と言うわけではなさそうだ。
なら……。
ワイバーンに火球を撃つ。それはかわされてしまったが……。
「ぅああっ!!」
ワイバーンが避けた方へ刀を投擲する。それはワイバーンの脇腹あたりに突き刺さった。
しかし、あれは俺の体のサイズに合わせて作った物。普通の刀より短い作りになっている。
それに加えワイバーンは大きい。あの程度の刀が根元まで突き刺さったとしても、痛くも痒くもないだろう。
欲を言えば内臓とかに届いて欲しかったが、それは叶わない。
事実、ワイバーンは刀が刺さった事を気にも止めていないようだ。
それを理解し、収納部屋を通して刀を手元に戻した。
「ダメか……」
どうする? きっともう、瞬間移動のフェイントは通用しないだろう。
刀を構えつつ横目で辺りを見渡す。すると、左側に飛び抜けて高い岩山がある事に気がついた。
あれを登れば、跳ばずにワイバーンとの距離を縮められるか?
「……悩んでる暇は無いね」
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