83話 再開 3
「……ぅ、痛……」
激しい頭痛で目を覚ました。
暗っ……ひ、光魔法……。
光魔法で明かりを確保して、状況を確認する。
とにかく……起きないと……。
「……ぅぐ!?」
起き上がろうと、下半身に激痛が走った。
何かと思い足へ視線を向けると、下半身が落石に埋もれている。
「ふっ……ぐっ……」
瞬間移動で落石から脱出し、岩壁にもたれかかった。痛む足と頭に、治癒魔法を使って傷を癒す。
意識が混濁し、少し混乱気味だ。現状を確認しないと。
今、俺がいるのは岩で囲まれた狭い空間。大人であれば数人も入れない。
今さっきまで俺が倒れていた場所は、この空間の外へとつながる入り口だったようだ。
だが、完全に瓦礫で塞がってしまっている。
そこには、おそらく俺の血であろう液体が作った水たまりがゆらゆらと揺れ、光を反射していた。
それを見て、何が起きたかを思い出す。
……そうだ。俺はワイバーンと戦ってて、ここに逃げ込んだ。
あの時はくぼみだと思ったが、どうやら洞窟の入り口だったらしい。
「う、うわ……よく生きてたな……」
体を見ると、全身血だらけだ。治癒魔法が無ければ、確実に死んでいただろう。
「……やっぱり傷跡は残ってるね」
今の俺の体は歴戦の戦士の如く傷だらけだ。
呼吸が落ち着くに連れ、ある事を思い出した。
「……夢……見てた?」
さっきまで……懐かしい夢を見ていた気がする。
しかし、どんな夢だったかが、全く思い出せない。
ただ……なんだか、とても暖かい夢だった気がして、胸の突っかかりが取れた気もする。
「どんな夢だったっけ……?」
なんとか思い出そうとするも、そのほとんどか思い出せない。
思い出せたのは、“誰かと話した事”、“とても懐かしい気がした事”、そして……“その人物との約束”だ。
「約束……」
その“約束”だけは、何故かはっきりと覚えている。
1つ目は“必ず生きる事”。
これを約束させられた事を考えれば、その夢の人物は友好的な人物である事は明白だな。
そしてもう2つ目。これがいまいち分からない。
“私の代わりを姉と思って欲しい“
どういう事? 代わりってなに?
私の代わりを姉と思う……つまり、代わりの姉って事?
なんか……まるで自分が俺の姉である様な言い方……。
もしかして……。
「……いや……」
今は生き残るという約束を守るために、ここから早く脱出しよう。
傷の治癒は終わったので、ゆっくり立ち上がり、問題がない事を確かめた。
しかし、目の前の瓦礫に埋もれた入り口の向こうには、まだあのワイバーンが居るかもしれない。
となると、別の出口を探さなければならないな。
「この奥に進むしかないよね……」
空間の奥の方を見つめながら呟いた。この空間の奥には小さな洞窟がある。
この体なら、ギリギリ通れるかな?
近づいて確かめると、這ってなら進めそうだ。
「……行くか」
四つん這いになり、その中を進んで行く。
他の出口を見つけられなかったとしても、最悪、土魔術で穴を開けて脱出できる。
今は、とにかくここから離れる事だけを考えよう。
しばらく四つん這いで進むと、開けた場所に出た。ここなら立って進めそうだ。警戒しながら進んで行く。
洞窟内はあの光るキノコが所々に生えていて周辺を照らしている事に加え、いつ襲われるか分からない不安感で、異様な雰囲気を醸し出していた。
「 ……この洞窟広すぎる」
数時間程さまよった俺は、無意識に愚痴をこぼした。
どこまでも続く洞窟に苛立ちを覚えていた。
今まで感じていた不安や危機感など、ほとんど消えている。
もういっそのこと、土魔術で横に穴を掘って行ってしまおうか?
……いや、音でワイバーンに見つかったら嫌だし、ここが奥の方だったら崩落も考えられる。
あのワイバーンに出会う直前の事を思い出した。
……崩落から逃げるのは、もうごめんだな。
「はぁー……」
諦めて大きくため息をついた時だった。
「……!! ……!」
「っ!!」
どこからか、かすかに声が聞こえた。
音を立てないようその場にしゃがみ、身体強化で聴力を高め全神経を集中させた。
「……」
しかし、悲鳴はなかなか聞こえない。聞き間違いか?
「ぃ……ぁ……!」
「! こっちだ!」
悲鳴が聞こえた方向へ全力で走り出す。
それに連れて聞こえる悲鳴も大きくなってきた。
「ぃ……ゃ……ぁぁ……ぁああ!」
どこだ!? でも、かなり近くまで来てるはず!
「どこ!? 聞こえたら返事して!」
呼びかけても返事はなく、聞こえてくるのは悲鳴だけだ。
すると、悲鳴がより一層大きく聞こえ、足音も聞こえた。
しかし、すぐにそれらは遠のいて行く。
まさか、すれ違った!?
いや、すれ違ったのならその姿を見るはずだ。そんなのは全く見ていない。
すると、右の岩壁の隙間から悲鳴が聞こえた。
「この向こうか!」
岩壁を土魔術で破壊し、向こう側へ飛び出し悲鳴が聞こえた方向を向く。
そこにいたのは、3匹の獣に襲われている黒髪の少女だった。
「痛い痛い痛い痛いいいい!!」
3匹の獣は少女の腹部や手足に食らい付いている。尋常ではない赤い液体が、辺りに飛び散っていた。
まずい!!
それを見て、とっさに少女を収納部屋を通して自分の元へ移動させた。
「やめて! 助けてぇ!」
「ちょ、落ち着いて!」
少女は俺の元へ移動した事に気づかず、バタバタと暴れ続けている。
俺は暴れる少女に大声で呼びかけた。
「落ち着いて!!」
すると、少女はようやくこちらに気がついたようで動きが止まる。
そして、こちらをじっと見つめてきた。
「……?」
少女は何か信じられない物を見たような表情で俺を見つめ続けた。
「……ィ……」
少女はそう呟くと、意識を失ってしまった。
「な、なんなんだ……?」
治癒魔法をかけつつ疑問に思ったが、今はそれどころではないと、少女を収納部屋へ避難させた。
少女を襲っていた3匹の獣を睨みつける。
その獣は四つん這いで、背には大きな翼が生えている。全身が鱗に覆われ、口からは鋭い牙が見えていた。
「ワイバーンの子供……?」
姿からして、その3匹はワイバーンの幼体だと推測できた。
だが……戦ってたあのワイバーンと比べると、なにか違う。
色は黒じゃなくて茶色だし、なんか全体的に丸い輪郭をしている。
……成長するに連れて、あんな風に黒くなって行くのかな?
「って、そんな事気にしてる場合じゃなかった!」
幼体のワイバーンは、唸りながらジリジリと距離を詰めてくる。
そして、その中の1匹が飛びかかってきた。
「うわ! こっち来んな!」
そのワイバーンを炎魔術“火球”で撃退する。
爆炎に包まれ、焼け焦げた死体が地に転がった。
すると、それを見た残りの2匹は仲間の死を理解したのか、足を止めた。
そして、突然鳴き始めた。
ゲーッゲーッゲーッ
とても不快な鳴き声を頭を上げて、辺りに響き渡らせるように繰り返している。
「うるさっ……急になに……!?」
脳裏に以前似たような鳴き声を聞いた記憶が浮かんだ。
あれは確か……森で1人で生活していた時だ。
群れから外れた魔獣の子供を狩ろうとした時、傷を負った魔獣がこのワイバーンの様に、頭を上げて鳴いていた。
その直後に、他の魔獣が襲ってきて死にそうになった事がある。
あの鳴き声は、“助けを求めていた”のだ。
「って事は……やばいよね」
振り返り、その場から全力で逃げた。
予想が当たっているのならば、すぐに成体のワイバーンが近くに来るはず。
その前にここから離れないと!
すると、前方に外の明かりが見えた。どうやらここは出口付近だったようだ。
走る速度を緩めずに外へ飛び出した。急に視界の明るさが変わり、一瞬なにも見えなくなる。
しだいに明るさに慣れ、周りが見えてきた。
ゴルルルルルル……。
「うそ……」
ようやく見えるようになった視界に、1匹の怪物が映り込んでいた。
あのワイバーンだ。
「来るの早すぎる……」
記憶が蘇り、恐怖心が湧いてきた。
しかし……。
「あれ……?」
よく見ると、ワイバーンの体のあちこちに傷がある事に気がついた。
もしかして……あの時の上位魔術で?
それに気づいた瞬間、脳裏に声が響いた。
『きっとすっごく怖いと思うし、すっごく辛いと思う。でも、それに負けないで。絶対に生きて欲しいの。約束して』
夢の中で俺は、それに頷いた。
それを思うと、恐怖心が徐々に薄れていった。いや、『勇気が湧いてきた』と言う方が正しいか。
今まで“ワイバーン”と言う強大な存在に対する恐怖心のせいで、戦いつつも“あれには敵わない”と心のどこかでそう思っていた。
だがあの傷を見るに、俺の魔術は通用するようだ。
それなら、今まで狩ってきた魔獣と変わらない。
『バイバイ! カイト! ずっと見守ってるからね!』
夢に出てきた、誰かも分からない人の声が頭に響く。見守ってくれているのなら、かっこ悪い姿は見せたく無い。
深く深呼吸をし、両手に炎魔術を宿し、ワイバーンを見上げて構えた。
「今度は負けないからな……!」
このワイバーンに勝って、必ず生きて帰ってやる。
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