57話 初めての冒険 6
ようやく俺の魔杖を見つけだが、それは眼帯をした男の手に握られていた。
部屋の中にいるのはその男だけだ。
「……この騒ぎはお前の仕業か」
睨みつけてくる男を睨み返す。
「その魔杖、返せ」
男は俺と魔杖を見て、鼻で笑い飛ばした。
「ふんっ、これがお前みたいな薄汚いガキのもんだ?」
「……」
「この魔杖はかなり高価な物だ。俺にこそふさわしいだろ?」
男は満足そうに魔杖を眺めている。
……なんでこうも、盗賊って自分を過大評価するんだろ?
ため息をつきながら、魔杖を収納部屋を通して自分の手元に移動させた。
「なぁ!?」
賊は驚いているがそんなことどうでもいい。
魔杖をすみからすみへと確認する。
よし……傷はないな。だけど、少し汚れている。早く帰って洗わないと……。
それを確認し部屋を出ようとしたが、男に呼び止められた。
「待ちやがれ!」
振り返ると、男の手には別の魔杖を持っている。あれが元々のあいつの魔杖なのだろう。
「何をしたかは分からねぇが、お前を生きて出すわけにはいかねぇ! “炎魔術 火球”!」
男は詠唱をし、炎魔術を使ってきた。
火の玉がこちらへまっすぐ飛んでくる。だが、俺に魔術は効かない。
“魔力分散”があるからだ。
火の玉は空中で拡散され、消えていく。
「なっ!?」
男は戸惑いながらも、再び炎魔術を撃ってきた。
だが、どれも俺に到達する前に消えてしまう。
「な、なんなんだお前は……」
完全に俺を恐れているな。
というか、外の状況に気がついてないのか? 結構、他の盗賊達は騒いでる気がするけど……。
そう思った時、他の賊が部屋に飛び込んできた。
「頭かしら! 周りが火で囲まれて脱出出来ません!」
「はぁ!?」
「消そうにも魔術陣から出ていて、いくら水をかけても……」
かしらと呼ばれた男が俺を睨みつけた。
「お前の仕業か!?」
「……今更?」
「俺達を焼き殺すつもりか!?」
どうしようか。このままこの建物にも火をつけるか?
相手はあの牢屋にいた人達のように人攫いや、殺人などの犯罪をしてきた集団なのだ。
今更、情けなどいらないだろう。
「……じゃあね」
「ああ!?」
瞬間移動で建物の外へ出て、建物の真下の魔術陣からも炎を放出する。一瞬で建物は炎に包まれた。
バキバキと倒壊する音の中に、人の悲鳴が混じって聞こえた。
「……」
俺は少しの間、その様子を眺めていた。
人を殺めても何も感じない。
それを眺めている時、そんな事を考えていた。
やっぱり、長いサバイバル生活で感覚がおかしくなってしまったのか……それとも、元々俺がそう言う人間なのか……。
……まぁ、いっか。
悩んでも仕方ない。みんなのところに戻ろう。
しかし、歩き出そうとした俺の足はピタリと止まってしまった。
この事……みんなにどう説明しよう……。
普通の魔術士ではない事はバレてしまった。だが、それをどう説明するべきか分からない。
「うーん……」
腕を組み少し考えたが結局答えは見つからぬまま、みんなの元へ戻る事にした。
「まいったな……」
ミウちゃんが建物の中に消え、しばらくたった。
今、俺とラング、ミゼリアは彼女が置いていった人達の介抱をしている。
しかし、賊に奪われずに済んだ包帯などの応急処置の物だけでは、圧倒的に足ていないのだ。
悩んでいるとミゼリアが駆け寄ってきた。ラングはまだ怪我人の介抱をしている。
「ねぇジーフ……どうする? 包帯が全然足りないの」
「……」
怪我人の方へ目を向ける。
彼女はある程度の傷を治したと言っていた。
確かに牢屋で見た時より怪我は少ない気がする。だが、まだ治療が必要な怪我がちらほら見えた。
彼女はミゼリアの怪我を一瞬で治してしまった。その癒す力があれば、きっとこの傷はすぐに完治するのだろう。
だが、彼女はこの人達の傷を完治はさせなかった。
きっと……何か彼女にも理由があるのだろう。
ふと、炎に囲まれた建物を見た。
「ミウちゃん……遅いわね」
「……そうだな」
彼女が建物へ向かい、すでに10分以上経っている。
何かあったのか……。
そう思った瞬間、突然建物の下から火柱が上がり建物が一瞬で炎に包まれた。
「うお!?」
「きゃあ!?」
ここまで熱風が吹くほど凄まじい火力だ。
「何が起きた!?」
ラングが駆けつけてきた。
「な、なんだこれ……」
「分からない……」
「ミウちゃんは出てきたのか?」
「いや、まだだ……」
まだ炎の中からミウちゃんは出てきていない。
彼女は無事なのか……?
「……あ!」
ミゼリアが何かを見つけて指をさした。その方向には、こちらへ歩いてくる人影が炎の向こう側に見える。
そして、その人影と俺達の間の炎が開け、その人影の正体が期待通りの人物だったことが分かった。
「ミウちゃん!」
見たところ怪我はなさそうだ。手には魔杖を持っている。無事取り返せたようだ。
「皆さん……お待たせしました」
彼女が手を横に振ると、俺達の前に奪われた装備が出現した。
驚く俺達の横を彼女はつかつかと通り過ぎ、今度は俺達が介抱していた人達へ声をかけた。
「……聞いてください。皆さんは、次に気がついた時には、街にいます」
介抱されていた人達は疑問の声を上げたが、彼女が手を横に振った瞬間に、一瞬で全員消えてしまった。
俺達は口をパクパクと動かし、驚いた。
「それでは皆さん街へ……」
しかし、彼女は驚いている俺たちをよそに、移動を始めようとしている。
先程から次から次へと行動を移す彼女からは何か、焦りのようなものを感じた。
「ちょ、ちょっと待って! ミウちゃん、少し落ち着いて」
彼女はハッとして口ごもった。
「何をそんなに焦っているんだ? 何かあったなら……」
彼女は何か悩ましげな表情でこちらを見た。
「あの……皆さんはやっぱり、私の正体が気になるんですよね?」
「……え?」
正体……もしかして、装備を取り返しに行く前の事を気にしているのだろうか。
「……皆さんに、嘘をついままではいけない……と思うので、その……怒らないで聞いてください……」
彼女はためらう様子を見せながらも、自分について話し始めた。
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