第11話 魔女の城塞
「ミ……ミランダ!」
突如として平原に出現した
僕のいる中庭を見下ろすそのバルコニーに
そして彼女を見上げる中庭で、僕の体の周りに発生している黒い手は、彼女のスキルである
何度も見たことがあるからすぐに分かった。
「アル。ちゃんと生きていたわね」
「ミランダ! 君こそ無事で……良かった」
そうか。
何もない平原にいきなり出現したこの黒い城は、築城中だったミランダの居城なんだ。
その城は予定より早く完成し、このイベント中にテスト・プレイが行われると神様が言っていた。
北の森で
「何情けない顔してんのよ。アル。私がそう簡単にくたばるもんですか。ここからはこっちの反撃よ。好き勝手やってくれたそこのサムライ女に敗北の味を教えてあげようじゃないの。アル。手伝いなさい。あんたは私の家来なんだから」
その言葉に僕は胸がいっぱいになって声が出せず、その代わりに右手に握る金の
ミランダがいればどんな難局でも乗り越えられるような気がする。
不思議と彼女がそこにいるだけで僕は勇気が
そしてミランダの元気な顔が見られたことが、僕の心を喜びに震わせていた。
そんな中、アナリンは自分が握り締めている脇差し・
彼女が握る
「そうか……そういうことか。この城がここに現れる予定であったから、この平原に反応があったのか。だとすれば……」
アナリンは合点がいったというように
そしてバルコニーに立つミランダを見上げた。
「魔女ミランダ。ここに王女がいるのだな。隠そうともムダ……」
「ええ。いるわよ。あんたのお目当ての王女様。この城にね」
……ええええっ?
そ、そんなアッサリと。
王女様がここにいるのもビックリだけど、それを隠そうともせずに平然とバラすミランダにもビックリだよ。
「……今すぐに王女を引き渡せ」
「サムライ女。あんたも欲しいものはその刀で手に入れてきたクチでしょ。欲しいなら力づくで奪えば?」
そう言うとミランダはニヤリと意地悪な笑みを浮かべ、お行儀悪く中指を立てて見せた。
それを見たアナリンの目に冷たい殺気が浮かぶ。
「よかろう。頭の悪い魔女に再び我が刃で斬られる痛みを思い出させてやろう」
アナリンは
僕は緊張に息を飲む。
強気なミランダだけど北の森ではアナリンの前に敗れ去ってしまい、愛用の武器である
もし僕がミランダの立場だったら、怖くてもうアナリンの顔も見たくないはずだ。
再戦なんてとても考えられない。
だけどミランダは違う。
やられたままでは終わらせない。
必ずやり返す。
それにミランダだって百戦錬磨のボスキャラだ。
何の手もなく無謀な戦いを
信じよう。
僕が一番長く一緒に過ごしてきた彼女のことを。
「行くぞ!
アナリンは僕を無視してミランダに向かい、中庭を駆け出した。
そんな彼女の行く手を
アナリンは
だけどそんな彼女を
「チッ!」
アナリンは人間離れした反応を見せると、素早く地面を転がってこれを避けた。
これは……
それは確かにミランダの攻撃魔法だった。
だけどそれらは周囲を取り囲む黒塗りの城壁の壁面から発射されている。
「どういう仕掛けなんだ?」
ミランダはバルコニーの
この攻撃はミランダが頭の中で何か指示を出しているんだろうけれど、まったくそんなそぶりは見せずにただ見物しているかのようだ。
そして
実装できるスキルは3つしかないはずなんだけど、いつの間にかスキルを組み替えたのか?
そんな僕の疑問を
「ここは私の
城にもスキルを実装できるのか?
ということは本来の自分のスキル3つと合わせて、ミランダはここにいる限り6つのスキルを使えるってことか。
ボス権限なんだろうけど、それは反則的なまでに有利な条件だ。
だけどアナリンはミランダの言葉にもまったく動じた様子を見せない。
「だから何だ? その程度で自分が優位に立ったつもりか? 片腹痛いわ!」
アナリンは周囲からまとわりついてくる
さらにはその状態からミランダをも
「
アナリンが素早く
だけどミランダは素早く飛び上がって空中で一回転するとこれをかわした。
すごい動きだ。
「フンッ。いつまでもそんなもん喰らうと思ってんじゃないわよ」
そう言うとミランダはその手から次々と
「うわっ!」
僕は巻き添えを避けるために慌てて中庭の奥へと下がった。
アナリンは襲い来る黒い火球を次々と避けるけれど、同時に壁から
「くっ!」
地面に転がってそれすらも避けるアナリンに、地面から生える
アナリンは
す……すご過ぎる。
複数の魔法を駆使してこれだけの弾幕を放ち続けるミランダも、それを避け続けるアナリンも。
攻防のレベルが高過ぎて僕はまったく手出しをすることが出来ない。
「面倒だ!」
そう言うとアナリンは
もう幾度もその構えを見たから分かる。
彼女は
やばい!
光の刃の
この場にいる僕も危ない!
だけどそこで不意にミランダが声を上げて攻撃を止めたんだ。
「待ちなさい! サムライ女!」
その声にアナリンは刀をピタリと止めて
そんな彼女を見下ろしてミランダは
「あんたがお探しの王女なら今、城内の寝室で寝てるわ」
そう言うとミランダはパチンと指を鳴らす。
そしてその映像にはご
ミ、ミランダ……一体どういうつもり?
当然アナリンも
「貴様。
「別に。あの地図は本物よ。ま、途中にたっぷり
人を食ったような態度のミランダのその真意を探ろうとアナリンは彼女を凝視する。
「なぜ貴様がそれを
それを聞いたミランダは思わず鼻で笑う。
「フッ。守るべき存在? あんた馬鹿なの? 私は悪の魔女なんだけど? 王女に危害を加える側であって、守ることなんてしないわ。要するに王女がどうなろうと知ったこっちゃないってことよ」
た、確かにその通り。
ミランダは人々に恐れられる悪の魔女であり、王女を助ける義理はない……表向きにはね。
そしてミランダはその目にあやしげな光を浮かべて言葉を続けた。
「私はね、新設されたこの城の機能を試したいのよ。サムライ女。あんたはこの城の
これだとまるでアナリンが姫を助けに来た騎士みたいだ。
「やるかやらないかはあんたに任せるけど、やらないんだったらここで死んでもらうわ」
ミランダがそう言うと再び周囲の
そして中庭の
僕は自分の周囲に展開される
ミランダにはきっと考えがあるんだ。
そして王女様を奪われないよう算段もつけてあるんだろう。
だからこそアナリンを
この城の中にあるという
ただひとつ言えることは、こうしてミランダが僕からアナリンを遠ざけてくれていることで、僕は回復ドリンクによって自分のライフをようやく回復することが出来た。
もしかしたらミランダは僕を守るためにアナリンを
きっとそうだ。
アナリンは数々の攻撃をかわしながら、
「チッ! よかろう。
怒りを声に
その後を追い立てるかのように
アナリンは振り返ることなく城内へと姿を消していく。
アナリンがミランダの口車に乗ったのは、彼女が王女の
一剣士として本来なら今すぐにでも僕らを八つ裂きにしたいはずだ。
だけどそれをしても王女様の
そんなアナリンの立ち位置を逆手に取るミランダの機転だった。
とにかくこれで目の前の危機からは一時的に脱することが出来た。
それから僕は、
こうしてミランダを間近で見ると、あらためて僕の胸に
「ミランダ……本当に無事で良かった」
「アル。色々と話すことはあるけれど、今はのんびりしている
ミランダはほんのわずかに表情を
「そうだね。でも大丈夫なの? アナリンを入城させちゃって」
「これは時間
「横槍?」
そう言うとミランダは北の方角を指差した。
このミランダ城のバルコニーから見える平原に目を向けた僕は、思わず目を見開いた。
「……アニヒレート」
四方を城壁に囲まれた中庭にいた時には気付かなかったけれど、今まさにアニヒレートがこのミランダ城へ向かってきていたんだ。
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