第7話 まさかの再会
作戦本部の置かれたモンガラン運河からわずか2キロメートル東に広がる雑木林。
ポイント・フォーとなるその雑木林の手前に僕とノアは降り立った。
すでに話が通っている部隊長の上級兵士がすぐに駆け寄って来て
「ノア殿とアルフリーダ殿ですね。加勢に感謝します」
僕よりずっと年上にも関わらず男性隊長は背すじを伸ばしたまま敬礼をしてくれた。
僕も思わず背すじをピンッと伸ばしてこれに応えた。
「微力を尽くします。何としてもアニヒレートを食い止めましょう」
それから僕らは作戦の流れを確認し合った。
5000人の兵士が組織だった動きをする中で、僕とノアはアニヒレートの一番近くでアニヒレートを
そのために使うのが僕の持つ銀の
そのEライフルで弾丸の代わりに射出した銀色の
「結局、なぜアニヒレートは
部隊長との打ち合わせを終えて前線へと歩いて向かう途中でノアがそう
このポイント・フォーで行われる作戦『スネーク・カーニバル』は精霊魔術師による
だけど
でも神様はある確証を
僕はさっきそれを作戦本部で神様から聞かされていた。
「アニヒレートには元になったモンスターがいるんだ。いや、正確には『いた』と言うべきだね」
「元になったモンスター?」
アニヒレートという規格外のモンスターを創造するにあたり、運営本部は過去から現在に至るまでに存在したモンスターの中からモデルになる魔物をピックアップしたらしい。
その際に意見として出たのが、過去にロール・アウトしたモンスターの中から現在はすでにゲーム上で運用されていないキャラクターをリノベーションするという話だった。
そこで白羽の矢が立てられたのが、あるモンスターだった。
神様の話によればこのゲームが始まって間もない頃、比較的弱い魔物が分布している地域にボスとして君臨していたデイモン・グリズリーという
幾度目かのアップデートで大規模なマップ変更があって、デイモン・グリズリーが住んでいた森が砂漠化してしまったんだ。
生きる場所を追われたデイモン・グリズリーはアップデートの波に飲まれて退場することになった。
要するにこのゲームでの役目を終えたってことなんだ。
「その
「うん。そのデイモン・グリズリーは大きさこそ3メートル程度だったらしいんだけど、周囲の魔物が弱いその地域では際立って強かったんだ。だからまだレベルの低いプレイヤーたちにとっては強敵だったんだけど……」
そのデイモン・グリズリーにも弱点があった。
それが
「その時の名残でアニヒレートにも
「うん。設定上、デイモン・グリズリーは砂漠の
そして神様はそれを立証するべく、アニヒレートのホンハイ襲撃時にテストを行ったらしい。
僕が眠っている間の出来事だ。
ホンハイに派遣していた
全長20メートルほどになる
その
結果としてその
「なるほど。話が見えてきたな。そのデイモンなんたらという古き
「うん。ほんの1分ちょっとの間なんだけど、アニヒレートの防御力が25%ほど下がってダメージ量が多くなったらしいんだ」
その間、ホンハイの軍勢からの攻撃を受けていたアニヒレートが少し多めにライフを減らしたことで神様は気付いたらしい。
あらかじめ準備していた
「しかしなぜ神はそのことを分かっていながら今回の作戦の初期段階から
ノアが口にした疑問は当然のことだった。
でもそれには理由がある。
「集められる
凍結系の攻撃に慣れてきたように、
神様はそのことを
ノアも納得して
「なるほどな。ならばやはり
「そうだね。がんばらないと……」
そう言ったその時、前から歩いてきた人物の姿が目に入り、僕は思わず歩みを止めた。
あ、あれ……?
目の前から歩いてきた1人の女の子が僕とすれ違う。
そこで僕は無意識に声を
「え……き、君は……」
すれ違いざまに間近で見たその女の子の姿に、心臓が跳ね上がるのを感じて僕は息を飲んだ。
なぜなら僕はかつてその女の子に会ったことがあるからだ。
そして出来れば二度と会いたくないと思っていた。
今も強烈な印象が鮮烈に残っているからだ。
短く無造作な赤い髪に銀色の瞳、そして赤と黒を基調とした露出の多いレザーアーマー。
その手には黒光りする
かつて彼女はその
「キ、キーラ……」
そう。
彼女は以前に砂漠都市ジェルスレイムで僕やアリアナを苦しめた暗黒の双子姉妹の姉。
魔獣使い・キーラだったんだ。
「あん? 誰だてめえは?」
彼女は振り返ると
相変わらず鋭い目つきだけど、その表情は見知らぬ誰かを見るそれだった。
あ、そうか。
今、僕はアルフリーダの姿だから彼女は僕が誰だか分からないんだ。
つい呼び止めるようなことをしてしまったけれど、彼女からしたらいきなり知らない人に呼びかけられたのと同じことだ。
「あ、あの……」
「うん? おまえ……どこかで見た顔だな」
ギクッ!
僕は思わずギョッとするのを隠せずに目を
キーラはそんな僕の顔をマジマジと
ま、まずい。
彼女は僕を
僕だってことがバレたら何をされるか。
勘の鋭そうな彼女に気付かれる前に
「あ、い、いや。以前にジェルスレイムの放送でお見かけしたことがあるので……実際にご本人のあなたにお会いするのは初めて……です」
僕が消え入りそうな声でそう言うと、キーラはしげしげと僕を品定めするように見てからフッと肩をすくめた。
「ハッ。そうかよ。あの頃のアタシらを知ってんのか。なら今はさぞかし笑えるだろ。この通り、仮出所中の落ちぶれた身だからよ」
そう言うとキーラは自分の首を指差した。
そこには運営本部によって首輪がハメられていて、彼女が更正プログラムの途上にあることが示されていた。
さらに彼女の周囲には監視用の妖精が数体見張りをしている。
砂漠都市ジェルスレイムで不正プログラムを用いてゲームを混乱に
そこで更正プログラムを受けていたらしいことまでは分かっていた。
その後のことは知らなかったけれど、こうして監視付きとはいえ外に出られるようになったのか。
「きょ、今日は妹さんは御一緒じゃないんですか?」
キーラにはアディソンという双子の妹がいる。
暗黒
「アディソンはまだ
「そ、そうなんですか」
アディソンはここにいないのか。
僕は内心でホッとしていた。
この双子には僕もさんざん痛めつけられたからついビクビクしてしまうけど、何とか更正してくれればいいな。
そんなことを思いながら僕は自分がアルフレッドだということを悟られないように、女性らしい穏やかな口調で
魔獣使いたちが駆り出されているこの現場にキーラがいるってことは……。
「
「気に食わねえことにな。運営本部さまに罪を許していただくためのありがた~い奉仕活動ってやつだ。クソ面白くもねえ」
そう言うとキーラは手に持っている
ひえっ!
思わずその音にビクッとしてしまいながらも僕は必死に笑顔を保って言った。
「で、でも腕の見せ所じゃないですか。魔獣使いとしての腕を見込まれてここにいらしたんでしょうから」
「そりゃそうさ。ここにいるボンクラどもより
そう言うとキーラは
「おまえ……やっぱりどこかで見たことあるような気がするな」
「ま、まあよくある顔ですから。似た誰かを見たんじゃないですか?」
僕の言葉にキーラは頭をかいて再び
「ま、どうでもいいか」
そう言うとキーラは荒々しい足取りで周囲の人たちを
「ふぅ~。怖かった」
「何なのだ? あの
僕の
「知り合いというか、以前に敵だった子なんだ。ミランダやジェネットやアリアナは知ってるよ。まあ、悪さして運営本部に捕まってたんだけど、今は更正の途中みたいだね」
「なるほどな。そなたが
「う、うん。女子の姿になっておいて良かったよ。僕だとバレたら何をされることか。ノアもおとなしくしていてくれてありがとね。トラブルにならずに済んだよ」
ヴィクトリアとはしょっちゅうケンカをしているノアだから、キーラ相手にもケンカを始めてしまうんじゃないかと、それも心配だったんだ。
だけどノアは
「フン。取るに足らぬ小物相手に牙を
そう言うとノアは再び前線に向けて飛び立っていく。
僕は冷静な彼女を頼もしく思いながら、その背中を追って飛び始めた。
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