第7話 森を行く
「や、やば……」
アニヒレートの吐き出した青い光弾が僕の目の前に迫る。
もうダメだ!
そう思ったその時、頭上からいくつもの氷の
そこに光弾がぶち当たってものすごい衝撃が生じ、積み上がった氷の
「うわあああっ!」
だけどその時、思わず叫び声を上げる僕の体を誰かが
それが誰だか分からない僕じゃない。
僕は万感の思いを込めてその少女の名前を呼んだ。
「アリアナ!」
「アル君!」
焼けた森の中で熱さに苦しんでいたものと思われたアリアナは、元気な姿を僕の前に見せてくれたんだ。
森の中でトビダニを排除しながらアニヒレートとも戦っていたせいか、彼女の魔力はかなり減ってしまっているけれど、ライフはまだ十分に残っている。
「大丈夫? アル君」
「助かったよ。アリアナ。君も無事でよかった。この状況だからアリアナが苦しんでないか心配してたんだ」
「ありがとうアル君。でも大丈夫。こんな時のために用意してきたんだ」
そう言うアリアナの
「冷えピッタンとアイス・コートだよ。苦手な熱から私を守ってくれるの」
そう言うと彼女は得意げに笑った。
アリアナはちゃんと自分の弱点を補う装備を用意してきたんだ。
そんな彼女の姿に僕は勇気付けられた。
ミランダはまだ見つからず、Eライフルも落としてしまった。
そしてアニヒレートを封じ込める作戦は上手くいかなかったけれど、まだ僕達にやれることはあるはずだ。
アリアナは素早く移動して
そんな彼女に僕は状況を説明した。
「アリアナ。魔道弓手1人と神官2人がゲームオーバーになっちゃったんだ」
「うん。私たちが森の中で変な虫と戦ってる時、アニヒレートの光弾が襲ってきて、みんな吹き飛ばされちゃったの。私はギリギリで避けることが出来たけど……」
5人いる
残っているもう1人の魔道弓手と精霊魔術師はどうなったんだ?
「残ってる
「良かった。エマさんも無事だったんだね」
僕の言葉に
後方ではアニヒレートが
だけどアリアナのこのスピードで森の中を逃げれば、追いつかれることはないだろう。
ひとまず
「……ハッ! そうだアリアナ。上空にアナリンが来てるんだ」
「ええっ? アナリンが? ど、どうしてここに……」
アナリンは南にいるはずで、僕も彼女がいきなりこの北部地方に現れるとは思ってもみなかったからアリアナの気持ちは分かる。
「どうしてアナリンがここにいるのか、理由は分からない。でもミランダが彼女にやられて森の中に落ちて……僕、ミランダを探しに行かないと」
「ミ、ミランダまで……」
ミランダの強さをよく知るアリアナは神妙な
アリアナはアナリンの強さも身を持って知っている。
そんな彼女だからこそミランダとアナリンの戦いを想像してその顔を
だけどアリアナはグッと拳を握り締めると、顔を上げて言った。
「アル君。アニヒレートのことは私に任せて。ミランダを探しに行って」
「でも……」
「大丈夫。倒すことは出来なくても、少しの間、足止めをすることくらいなら私にも出来る。必ずやってみせるから」
アリアナは彼女にしては
僕の背中を押す様にそう言ってくれるアリアナに感謝して、僕は彼女の拳に自分の小さな拳を軽く当てた。
「分かった。アリアナ。頼んだよ。絶対に無茶はしないで、危なくなったらちゃんと自分の命を一番に優先してね」
「無茶はアル君の専売特許でしょ。私のほうが心配だよ。アル君いつもムチャクチャするから」
「……そうでした。気を付けます」
それから僕とアリアナは今来た道を戻り、アニヒレートの元へ向かう。
アリアナはアニヒレートを足止めするために。
僕はその背後に広がる森でミランダを探すために。
僕らが森の中を抜けて再び
そこには
さらにアニヒレートは再び青い光弾を吐きまくり、森のより広範囲が燃え上がっていった。
それを見てアリアナが怒りの声を上げる。
「北の森をこれ以上傷つけないで!」
そう言うとアリアナはアニヒレートの横っ面に向けて
「グガァァァァァ!」
アリアナを踏み
「アル君! ちょっと乱暴だけど、向こう側に投げるよ」
「う、うん! いつでもいいよ!」
「いっけえええええ!」
アリアナが力いっぱい投げた僕の体は、
僕は木に激突しないように妖精の羽を広げて急ブレーキをかけた。
そして木の陰に回り込んで広場を見つめると、アニヒレートの背後に回り込んだアリアナが両手を左右に広げて腰を落としていた。
その背中に浮かぶコマンド・ウインドウに【解禁】の文字が表示された。
アリアナの魔力が尽きて、彼女の必殺技が使用可能になる時の表示だ。
アリアナの体全体が青白く光り
アナリンには打ち破られてしまったけれど、あれはアリアナの最高の大技だ。
それが今、アニヒレートの背中に向けて放たれようとしている。
「
彼女の両手から吹き出す猛烈な氷吹雪の
「フグオオオオオッ!」
苦しげな悲鳴を上げるアニヒレートの体が見る見るうちに白く凍り付いていく。
こ、これは効きそうだぞ。
アニヒレートのライフそのものは300程度の減少量だったけれど、それよりもその巨大な体が凍り付いて動かなくなっていく。
ほんの十数秒の間にアニヒレートは真っ白な氷像のような姿に変わってしまった。
す、すごい!
アリアナは技を放ち終えると肩で息をしながらも、しっかりと大地に踏ん張ってアニヒレートの姿を見上げた。
彼女は有言実行で見事にアニヒレートの足止めをしてみせたんだ。
いくら強大な存在とはいえ、アニヒレートは
「今のうちにミランダを見つけなきゃ」
僕は自分の役目を果たすべく、すぐさま森の奥へと向かった。
ミランダが落下したであろう場所は幸いにしてまだアニヒレートの光弾による火の手が回っていなかった。
用心しなから森の中を進む僕はそれからほどなくして足を止めた。
「ん? あれは……」
僕の前方の木々の合間を
あれは……何だろう?
よく見るとそれは僕と同じくらいの
多分あれは作戦本部が用意した中継カメラ役の監視妖精たちだ。
アニヒレートの移動に合わせて彼女たちも移動しているんだな。
その妖精たちが遠くへ離れていくのを見送ったその時、僕のすぐ目の前にある木の
「うわっ!」
「きゃっ!」
それは
彼女は僕にぶつかりそうになると
そして僕を
「ちょっと! 危ないじゃない!」
「ご、ごめんなさい」
な、何だ?
この子は。
もしかしたら仲間たちとはぐれた監視妖精かな?
「はぁ。早くしないと置いていかれちゃう」
そう言うとその妖精の女の子はオロオロと周りを見回した。
やっぱりそうか。
仲間たちと離れてしまったんだね。
「大丈夫? 君の仲間たちなら、ついさっき西に向かったよ。
僕の言葉に彼女はホッと
それから彼女は
「あなたも監視妖精なのかしら?」
「え? あ、ああ。いや、ぼ……じゃなくて私は違うよ。ご主人様を探してて」
あ、危ない危ない。
つい僕って言いそうになっちゃったけど、今の僕は女の子の姿だった。
あ、あやしまれてないかな。
心配する僕だけど妖精の女の子はすぐに興味を失ったのように話題を変えた。
「それよりあなた。
「
それを教えてあげると彼女はスッと僕に近づき、いきなりほっぺにチュッと口づけをしてきた。
「ひえっ! な、なに?」
「お礼よお礼。じゃあね」
そう言うと妖精の女の子はサッサと森の中を遠ざかっていった。
僕は
び、びっくりしたぁ。
監視妖精ってもっと機械的なのかと思ったけれど、あんな子もいるんだ。
そこで僕はハッと我に返った。
そうだ。
こんなことしている場合じゃない。
ミランダを探さないと。
僕はすぐに先へと進み始めたんだけど、そこで再び足を止めることになる。
なぜなら動物のものと思しき
反射的に木の陰に身を隠した僕は、そこから前方を
すると数十メートル先の森の中には、黒い体を持つ一頭の
僕は心臓が跳ね上がるのを感じて思わず呼吸を止めた。
あ、あれは……
アナリンの
ということはアナリンがすぐ近くにいるってことだ。
彼女はアニヒレートの光弾の
僕は息を潜めてその場を離れ、なるべく目立たないように地面の近くを飛びながら移動する。
幸い、
何としてもアナリンよりも先にミランダを見つけないと。
今の僕はEライフルも失くしてしまって、戦う
アナリンに見つかったら一巻の終わりだ。
緊張に身を堅くして、周囲を最大限警戒しながら僕は森の中を進んでいく。
それから少し行くと、水音が聞こえてきた。
森の中に川が流れているんだ。
ほどなくして僕の目の前に現れたのは、川幅が5メートルほどの川で、流れの速さが特徴的な
火災のせいで全体的に温度が上がっている熱い森の中で、ここだけは川の流れのおかげで比較的
だけどその
「まだ残っていたのか」
そう思った僕はトビダニが何かに群がっているのを見て
川岸から
その木の枝の先には……。
「なっ……」
その木の枝の先には1人の少女の姿があったんだ。
黒い衣をまとったその少女は、木の枝に体を預けるようにしてうつ
遠目からでも僕にはすぐに分かった。
黒い衣をまとったその少女が、僕が探していたミランダだと。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます