長谷部 優衣視点 平均的数値に収束

わたしの気持ちをわかって、なんて話ではない。


心の声が漏れてしまったことが、こんなにおおごとになっている。


だけど、わたしはそれでもね、聞いてみたいんだ。


わたしは、上田くんが好き。彼は空気のように亜香里さんの隣にいた、彼の努力を1番知っているのはわたしだ。


一度、さりげなく上田くんに聞いたことがあった。どうして、告白しないの?亜香里さんのこと、好きなんでしょ?って。


そしたら彼、していたの。友達に対して言うでもなく、ただ遠い存在を想うように、こう呟いた。


「好きだよ。でもうまく言えないんだが、これだけ一緒にいても、一度も俺のことを男として見てくれないんだよな」


「でも、チャンスくらいあるんじゃない?」


「長谷部はそう思うのか?だとしたら、全然亜香里のことわかってないな。四六時中ずっと、起きてから眠るまで、下手したら夢の中まで、ひとりの男のことを考えてるあいつに、俺の居場所は無いよ」


「でも、彼女振られてるんでしょ?だったら上田くんが今は助けてあげなきゃ」


「自分に振り向かない人を助け続けるのは、しんどいぞ?」


「え?」


「もし、自分だったらこうするのに。って、何度思ったことか。亜香里が一歩引いてた時期も、全力で振り向かせようとした時期もどっちも知ってる。全てはあの先輩のせいなんだけど。・・・そして、あいつは、亜香里は変わらないんだよ」


「何を弱気になってるの?わたしから見て、亜香里さんを救えるのは上田くんだけだと思うけど」


「違う。あいつにとってが全部逃げなんだ。あいつ自身がそうしてる。そう言ってる。そう仕向けてる。それがわかっていてなお、俺は動かない。いや、別の意味で動いたか。先輩にぶん殴るって言っといたからな」


「それじゃあ、水谷先輩は望美先輩と別れて、亜香里さんと付き合うの?」


「どっちとも付き合うんでしょ?あの3人見てたら、それが一番だろ」


「なにそれ?それで・・・いいの?」


「俺か?いいと思う。それで、亜香里が元気になるなら」


「なにそれ。おかしいよ!都合良すぎ!上田くんも結局は上手く使われてるんじゃないの!」


「それは言い返せないけど、ひとつだけ言えることがある。・・・あかりの、どこまでも真っ直ぐな気持ちは、ずっとブレてない。ほんとに好きなんだな、って。何度も何度も思い知った。俺も、あいつみたいに、ただ真っ直ぐにバスケと向き合いたい」


「恋と部活は全然話が違うよ?上田くんは、そう言って、自分を納得させてるの?」


「結局は、自分がどうしたいか、なんだよな。そして、どこまで自分を、相手を信じてるかどうか。まぁ、水谷先輩を信じてる亜香里はちょっと危なっかしいんだけど、・・・いいよなぁ。俺も信頼される男になりてぇ!」


叶わない恋を知った彼は、それでも晴れやかな顔で、決して相手を恨むわけでも、否定するわけでもなかった。


わたしは、良くわからない。だって、一人が二人のことを同時に愛せるはずがない。だから、3人で付き合うなんてことはあり得ない。破綻してると言っていい。


上田くんのためにわたしが言うことじゃないけど、それでも、言わなきゃ。


特殊な付き合い方だ。上田くんから話を聞いたから、事情はわかる。用は、誰も傷つけたく無い男が女両方選んで宜しくどうぞと言っているんでしょう?

・・・とんでもない独りよがりだ。女性側も然り。誰も傷つけたく無い、傷つきたく無い独りよがりが寄せ集まって3人になっただけ。失恋するのが嫌だから?可哀想だから付き合うの?そうとしか思えない。


だからわたしは、金森先輩を介抱していた先輩に言う。


「わかりません。自分勝手が3人集まって、誰かを傷つけてまで、3人で付き合う意味は?」


するとこの先輩は、ただ、こう告げた。


「恋愛っていうのはね、自分勝手を人に押し付け合うゲームなの。先行逃げ切りが1番強くて、先に進もうとする人を止めることは誰にもできない」


意味がちょっと、わからない。わたしは今、普通の恋愛の話をしたいんじゃない。


「先輩は、何を言ってるんですか?」


「置いて行かれた人を応援するのは勝手だけど、負け犬の遠吠えにしか聞こえないわよ」


「!!」


「あら、カマをかけたら、中々わかりやすい反応ね」


違う。上田くんは好きだけど、今はそんな話をしたいんじゃない。わたしの方が正しいはずだから。複数人と付き合う人の擁護はできないはず。姉妹同時に付き合う水谷先輩は、女子でも不人気なはず。


「話を逸らさないでくださいよ。誰が負けたとかどうでもいいです。ただ、3人で付き合うことが、


・・・言いましたよ。気持ち悪いって。おかしいんですよ。男女の付き合いとして破綻してますよね?この部活は変な男子が多いですね。ストーカーしたり、パートナーが2人いるって公言したり。


ちゃんと真面目にやってる人が、可哀想ですよ」


上田くんのこと、濁すけど、これくらいは言っていいかな?


伝わらないと思う。わたしの気持ちはこれっぽっちも。


だから、ああ、ちょっとこの先輩の言ってる意味が、わかっちゃった。


ーーー気持ちを声に出すって、大変だな。


ブレないで自分を貫くことが、どんなに大変かがわかる。


だから亜香里さんに嫉妬したんだ。声を上げるための勇気と、愚直さと、相手を信じるその真っ直ぐさに。


それは、わたしができることじゃない。わたしができることは、自分がどれだけ正しいのかを謳い、相手を糾弾するやり方だ。


あ、れ?


「誰か、わたしの考えが正しいって言ってよ?」


言いながら、悔しくて堪らない。


なぜ、わたしはわざと負けるようなことをしているんだろうか?


あ。


クラっとして倒れそうになったところを、月城先輩に支えてもらった。


「月城さん、その子任せていい?なんだか、訳ありみたいね」


「そこまで言っておいてぇ。まさかの瑞稀先輩は何も知らない感じぃ?」


「あら、恋愛なんて誰でもするんだから、当てはまりそうなこと言ってれば勝手に急所に当たるでしょう?」


「ヒェッ」


「わたしを、怒らないん、ですか?」


「・・・誰のために頑張ってるかは知らないけど、少しでも伝わればいいわね。あなたの想い」


「・・・・・・」


やっぱり、わたし、上田くんのために言ったのかな?


違うよ。多分、自分のためだよ。


上田くんはわたしが救うっていう、わたし自身の意思表示、なのかな?

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