大好きなやつを守るための術だった。
俺の嫉妬の力、というか、威圧の眼を習得したのは、小3の時だ。
ある日、俺は望美と二人で遊んでいた。走るのとキックボードではどっちが速いのかというくだらない遊びだった。
自転車は乗れるのだが、あえてキックボードで競うというのがミソだ。
望美がキックボードを使い、俺が走る。
キックボードには勝てるわけがないのに、俺は何度も何度も挑戦した。
そのうち、俺に勝ち続けてすっかりご機嫌な望美が言う。
「5びょうだけハンデをあげる。先にいつもの公園についたほうがかちね!」
俺は絶対勝てると思い、それこそ全力で駆けた。
周りの危険に目が行かないくらい必死に。
望美も負けたく無かったのか、必死になって追いかけてくる。
奇跡的に車がいなかった車道をノータイムで渡り切った俺は勝ちを確信して振り返る。
すると、望美が俺だけを見ていて、横から車が来てることに気付いていなかった。
やばい。望美、来ちゃダメだと思った。轢かれてしまうと思った。
そのとき、頭の中の時間の流れが加速したんだ。
一番最初に思ったのが、後悔だった。
なんでこんな馬鹿な遊びをしたんだろうと思った。
そして、急激に自分に対して腹が立ってしまったんだ。
「のぞみを、きずつけるなあっ!!」
気が付けば、叫んでいた。対象は車にだったかもしれない。望美にだったかもしれない。自分自身にも、怒りをぶつけていたんだ。
今思えば、なんて自己中な発言だったんだろうと思う。でも、とにかく必死だった。
そして、自分に対して怒りを向けた俺は、なぜか、眼にバチバチとした何かを宿して、
―――前のめりにキックボードで地面を蹴っていた望美が、寸でのところで何かに当てられて、後ろに尻もちをついた。
間一髪、車に轢かれる前に後ろにずっこけた望美は、泣きながら叫ぶ。
「その顔、おばけよりこわいから、きんし!」
それから、望美に悪い何かが起きるたびに、この力を使うようになってしまった。
この力は、俺と望美の成長とともに、どんどん威力を増していって、気がつけば、望美と亜香里を守るための飛び道具となったのだ。
ーーーーーー
「望美、大丈夫か!?」
「はやちゃん・・・うん、わたしは大丈夫だよ?・・・はやちゃんみたいな人が、いたんだね」
望美は顔を上げることだけで精一杯だ。さっきの試合、フル出場したから、疲れもあるんだろう。
「お兄、試合に集中して。アイツ、やばいよ?」
「わかってる」
試合どころじゃないぐらい、一同にみんながその場に尻もちをついて動かなくなった。
体育館のステージの上の教師たちが、何やら話し合っている。
だよな、ちょっとやりすぎだ。このまま、中止か?
アナウンスが流れる。
『ただいま、地震が発生しました。ですが、余震も無さそうなので、大会を続行します』
は?地震?
何でそんな解釈になるんだよ。
「お兄、いい?お兄もあの須藤って人も、本質的には何もしていない。お兄のは、三半規管を刺激して、酔ったと勘違いさせてるだけ。須藤って人は、ただ怖いだけ」
「そんな説明で納得できるわけないだろ?」
「でも、これは事実」
「で?どうすんだよ。これ、試合になるのか?」
「成立させて。お兄の力で、あの人のプレッシャーを緩和させるの。できる?」
「いや、無理だろ」
「無理じゃない。これはお兄にしかできない。なんとか、お兄だけにあの人の力が発揮されるように、仕向けて?」
「煽れってか?」
「さっきのプレッシャー、お兄に効いた?」
「いや、正直、俺の体は何も感じなかったな」
「じゃあやっぱり、お兄にしかできない。がんばって!」
いやいや亜香里さん、頑張ってとか言われましても。頑張るベクトルがまるで違う。
不安だ。めちゃくちゃ不安だ。
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