キスは格別

その日の夕食時。ロールキャベツを食べてる時だ。


母親がいつにも増して、視線を俺に送ってくる。意味わからん。


「なんだよ。人の顔ジロジロ見てさ」


「あんた、吹っ切れた顔してるわね。気持ち悪い」


「気持ち悪いってなんだよ」


まぁ、亜香里に応援してもらったからな。少しは気が楽になった。


そんな亜香里はもくもくと食べている。あんまり喋らない。


「え?もしかしてあかり、拗ねてる?」


「亜香里が一生懸命にお兄を応援しても、ちゃんと届かない。しくしく」


全然泣いてねーじゃん。今日の部活帰りはこいつ、確実に泣いてたけどな。


「颯人、確かにちょっと男らしくなったような・・・」


望美さん?俺をフォローしてるつもりだろうが、元がダメだと言ってるようなもんですよ?


「あんたは昔っから、追い込まれないと動かない子だったのよ。うじうじ悩んでるあんたに構ってる2人に、感謝しなさい?」


急に、母親が俺に小言を言うようになったな。


まぁ、2人と付き合ってる事実をスルーしてくれてる母親だ。今回のバスケの件は言いやすいのだろう。しかも答えは出てる。どんなことを言われようが、結局、やるしかないって感じだな。


で?望美さんからは何かもらえるのだろうか?


俺の視線に気づいた望美が、亜香里を睨む。亜香里がドヤ顔して、母親が溜息をついた。


なんだろう、このサイレント空間。




ーーーーーー




「よしよし。颯人はいい子だねー」


夕食後、亜香里が母親の相手をしている間、俺は部屋で望美の膝枕を堪能していた。


そして、優しく頭を撫でられている。なんかめっちゃ恥ずかしい。


「えっと・・・望美さん?これに、どんな意味が?」


「今のうちに甘えなよ。明日は夜、家に帰るし、イチャイチャできるの、今日だけだよ?」


明後日からの大会の前に、明日は望美と亜香里はうちに来ないで自分の家で過ごすらしい。まぁ、色々と準備とかあるだろうしな。


亜香里も一緒にイチャイチャすればいいのに、と思ったが、3人でイチャついたことはまだ無いし、時期早々か。


こういう時にいつも一歩引く亜香里も、ちゃんと受け入れてあげなきゃな。


「また、亜香里のこと考えてる」


「だから、なんでわかるんだよ」


「わかるよ。ずっとはやちゃんのこと見てるもん」


「やっぱり、俺に2人同時になんて、無理なのかな?」


「そんなことないよ?だって颯人は、ちゃんと、どっちもじゃなくて、わたしと、亜香里を見てくれてるじゃん」


「何が違うんだ?」


「普通はめんどくさくなって、わたしと亜香里をくるっとまとめて、ひとつのかたまりみたいに考えると思うの。でも、颯人はそんなことしないでしょう?」


「いや、だって、望美と亜香里は、違うし・・・」


「だから、いいの。はやちゃんは、このままで、いいからね?」


そうなのかな?と思いながら、いや、それはただの都合の良い解釈だと反発してしまう自分がいる。


それすらも見透かしたように、優しく頭を撫でる望美。


「えっちなこと、しとく?」


「唐突だな!」


「戦う前ににゃんにゃんしちゃう小説があったような・・・」


「おまえ、敗北幼馴染しか読まないんじゃなかったのかよ!」


「最近は、颯人のために追加で大人っぽいのをお勉強中だよ?」


どんなえっちなの読んでるんだろう?めっちゃ気になる。


「ま、いっか。颯人が、1番になれますように」


望美が、髪をかき上げ、上からキスを落として来た。優しくて、長いやつだ。


目を開いたら、望美が俺を見つめながら笑っていた。


「俺、1番になるから」


「頑張ってね?1番近くで、見てるからね?」


なんてことない、いつものイチャイチャの延長、みたいなやり取り。


だけど、俺にとっては、迷いを打ち消すための特効薬だった。


やっぱり、キスって偉大だわ。


あ、後で亜香里にもしとこう。

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