冷静さと情熱の間に亜香里が存在している


練習後の帰り道。俺の隣には亜香里がいた。


望美は、今頃バスケの練習の最後の追い込みをしてるはずだ。


「今日は、亜香里がサボりなんだな」


「お兄と一緒にいたくて、サボった」


理由が安直だろ。つーか、理由になってない。


だが、なぜだか俺は良い気分になってしまう。俺を優先してくれるのは嬉しいのだが、亜香里の飛び級の野望は終わってないはずだ。いいのか?それで。


「亜香里がいるのは嬉しいけど、練習しないと、全国出場は厳しくないか?」


「お兄は亜香里の優先順位をわかってない。亜香里にとってはお兄が1番。それは、変わらない」


自信たっぷりに話す亜香里を見ていると、今度の試合に向けて悩んでいる俺が馬鹿ばかしく思えてくる。


前に聞いたことを、今、もう一度聞いてみよう。


「俺が、勝てると思うか?」


「勝つに決まってる。あかりの王子様はさいつよ」


「無理に持ち上げなくても、いいぞ?」


「亜香里を助けてくれたお礼は、一生をかけて返します」


亜香里に好きだと言っただけなのに、俺が亜香里を助けたことになっているらしい。


そんな優しい手助けなら、いつでも、何度でもできそうだ。


「あかり、好きだぞ?」


「どのぐらい、好き?」


「望美と同じくらいかな」


「ここでお姉を出すのがダメダメお兄の特徴」


「だから、亜香里が必要なんだぞ?」


「お兄をダメ人間にしたくないけど、どうしたらいい?」


「ただ、そばにいてくれよ。それだけでいい」


「言われなくても、そうする」


別にあかりとなら、黙って歩いたっていいんだ。だけど、わざわざ口に出してもいいだろ?


返ってくる言葉だって、ちゃんとわかってる。だけど、このやり取りが無意味だなんて思わないんだ。不思議だ。


「疲れたら、ちゃんと言ってね?無理しないでね?」


「バスケの話か?」


「そう。みんな、お兄を信じてくれて亜香里は嬉しい。だけど、お兄に期待がのしかかってて、お兄が辛そう」


「亜香里?俺は、色々言い訳したけど、結局は俺自身が決めたんだ。中心人物になってやるって、やっと決められたんだ」


「それなら、いい。亜香里は見守る」


「バスケでかっこいいとこ、見せないとな」


「さっきの質問、ちゃんと答える」


亜香里が立ち止まる。うん、俺が負けそうって言うのはわかってるんだ。だから、言い方に悩まなくても、いいんだぞ?


「断言する。お兄は、この大会で覚醒する」


「なんじゃ、そりゃ」


「これは亜香里の魔法だよ?お兄にかけてあげた」


魔法、ねぇ。


上田にも敵わない俺が、チームの中心人物になって、強豪校に勝てるのだろうか?


亜香里の冷静な分析を聞きたかったのだが、やっぱり言ってくれないらしい。


「そんなんじゃなくてさ、もっと・・・」


「最初は負けててもいい。上田やストーカー先輩をあてにするのもいい。はやとがガードに徹するのも、いい」


ごめん、ストーカー先輩って、竜ヶ崎のことだよな?そこだけ気になったわ。


「だけど、はやとが活躍しないと、絶対に勝てない。お兄は、エースになって。今は、その片鱗すらないけど」


ほらな、わかってる。無謀だってことも、俺が調子に乗っている並の選手だってことも、わかってるさ。


「だけど、だけどっ!お兄は、絶対、諦めないでね!?」


あかりが、泣きそうになるなよ。くっそ。


「ああ、わかったよ。俺は、最後まで諦めない。試合中に心が折れそうになったら、今の言葉を、きっと、思い出すさ」


「お兄に、伝わった?」


「んー、いまいちだな」


「あとは、お姉に任せる。わたしの仕事は、ここで終わり」


まさかの姉妹の二段構えらしい。ドヤ顔してる亜香里のことだ。何か、考えがあるんだろうな。


亜香里も、望美も、勝利の女神ではないだろう。


だけど、勝つためなら、魔法だろうがなんだろうが、信じたい。そんな気持ちになるのだ。




ーーーーーーー


作者より。亜香里成分を自給自足したかった回でした。すみません。


上田にかけた暗示を、颯人にもかけた亜香里。果たして、効果は?


次回、望美回です。

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