昼、不機嫌な上田
バスケ部の話をしよう。
竜ヶ崎退部後の男子バスケ部は苦戦しつつも県大会出場を決めた。上田のスリーポイントシュート、スリーポイントラインよりも後ろからのシュートが入りまくって、何とか勝てたらしい。
女子は望美と・・・あと亜香里がプレーヤーに復帰して、地区予選準優勝らしい。大健闘だ。まぁ、女子の県大会出場は余裕だったみたいだ。
バスケの県大会を一週間後に控えた俺は、昨日からだったが、本気でバスケに取り組んでいた。
それまでは全く行ってない。
その理由は、亜香里に気を遣っていたからだ。バスケ部の練習をすれば亜香里に会う。昨日やっと会えて、ようやく俺も練習に堂々と参加できるようになった。
相澤先生からも歓迎されたので、とりあえず俺はスタメン確保を約束されて、大会に向けて上田と作戦会議をしようとした。
体育館裏の土手に陣取った俺と上田。なぜか上田は怒ってる。うん、なぜか。
不満たらたらな顔を隠すこともしないこいつは、開口一番、ぶっ込んでくる。
「亜香里について、先輩には話があります」
ふぅー、来たか。まぁ、亜香里の愚痴の相手はこいつだっていうのはわかってる。ほんと、感謝してもしきれない。名前呼びになってるから、それだけ仲良くなってるのもわかる。
「悪いな。上田には、亜香里のことを任せっきりにしてたからな」
「一回先輩の顔ぶん殴っていいですか?」
「怖っ!!上田は坊主だからヤンキーっぽく見えるし、冗談に聞こえないぞ?」
「冗談じゃないです。隙間時間全て先輩の話をされた俺の身にもなってくださいよ」
まじかよ。ほんと、ごめんな。
「しかもあいつ、まだ諦めてないし」
「そうみたいだな」
「先輩、お願いですから亜香里とも付き合ってくださいよ」
「そりゃ、無理な話だ」
「・・・ですよね。だから、あいつはハーレム法とか意味わからないことを言ってるんですよ」
「上田にも言ってるのか」
「すごいですよね。すごい真っ直ぐで、その、憧れるというか・・・」
ほう。
「亜香里のこと、好きになったか?」
「本人から、わたしのこと、好きにならないでね、って釘刺されてるんですよ」
「なんじゃそりゃ」
「亜香里がそういう相手を求めて無いのは知ってます。だから、俺も、それ以上は行きません」
そこまでわかってるなら、上田は苦しいだろうな。
亜香里が俺にベタ惚れなのも、難儀な性格をしてるのもわかって、その立ち位置なのだろう。
「だけど、先輩には勝ちたくなります。バスケで」
上田は真剣な顔だ。竜ヶ崎なんかと全然違う。
「勝負、するか?」
「はい、お願いします。・・・大会終わった後でいいんですけど」
「県大会よりも上田との対決の方が、気合入るな」
「先輩は、どうにかして、亜香里を幸せにできますか?」
「・・・今はわからない。でも、もし許されるなら、亜香里も幸せにしたい」
「ずるいですよね」
「亜香里によく言われた」
「じゃあもし、先輩が亜香里を不幸にしたら、俺が先輩を殴りに行きます。それまでは、殴るの我慢します」
「おまえさぁ・・・」
「なんですか。俺はバスケ一筋です。そう、亜香里に言われてます。俺は約束は守ります」
強いな、上田は。
「わかったよ。おまえにも約束する。亜香里は、俺が何とかする」
「別に、両方と付き合っても俺は理解しますよ?」
違うんだよ上田。そうじゃない。
「俺は、どうせなら、誰からも祝福されるやつを掴みたいんだ」
「ははっ。欲張りですね。でも、それが一番先輩らしいかもしれないです」
上田が笑う。俺もつられて、笑う。
亜香里のことは誰にも頼まない。俺が、俺自身が、ここから見つけてやるんだ。姉妹がどちらも悲しまない結末をさ。
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