第65話 先輩


駅前にいた俺たちは真っ先に五橋家に来た。


亜香里にちゃんと、望美と付き合ったと言うためだ。


望美の家族全員に言わなきゃいけない。


亜香里は、何て言うだろうか・・・






「お兄、お姉、どうしたの?」


玄関口に、亜香里がいた。


「亜香里、俺たちさ、付き合うことにしたんだ」


「へぇー、おめでとう。良かったね、お姉」


亜香里がおかしい。亜香里はそんなに笑わない。俺の知ってる亜香里は、泣き虫だ。


「じゃあ、家に上がっちゃダメ。どうせ、エッチなこと、するんでしょ?」


「いや、しないけどさ、亜香里?」


大丈夫か?と言いかけて、亜香里は悪戯っぽく笑う。


「ところで?わたしのパンツ、いい加減に返してもらえませんか?」


「颯人?」


ヒュオオと冷気を纏いそうな冷酷な瞳をした望美が、俺のつないでいる手の指ををグキッと曲げた。


「いってぇー!!」


「どういうこと?はやちゃん、今から家宅捜索しに行こうね」


「ちょっと、マジであかりそれはダメなやつで」


「せんぱーい、わたしに告白してみて?」


「は?」


「いいから」


「・・・あかり、好きだ」


「わたしはねぇ、はやとが・・・






だいっきらい!」


パチィン!


「いってぇー!?」


左頬をビンタされた俺。


「あかりはね、先輩が思ってるほど安い女じゃ無いからね!じゃあね、ばーか」


「あかりさんさぁ、ひどすぎませんかね?」


「ひどいのはどっちよ。さっさとお姉に怒られてきなさい、ばーか」






※ーーーーーーー


ガチャン


「ばーか。先輩のばーか」


「亜香里?」


「あっ、お母さん、すごいよ。お姉と水谷先輩、付き合ったんだって。長かったよねー」


「うん」


「先輩ねー、わたしがいないと何もできないの」


「うん」


「でもね、良かったぁー。お姉がいれば、もう安心だね?」


「うん」


ぎゅっ。


「お母さん?」


「泣いていいわよ」



「・・・先輩ね、女たらしなの」


「あかりの気持ち、弄んでたの」


「一人じゃ何もできない、弱っちぃ人なの」







でも、わたしは・・・





「だいすき」


「うん」


「はやとのことが、大好きなの」


「うん」



ぽろっ。



「うわああああああああああああああああああん!!ひどいよ、おに、い!!わたし、わたし、大好き、なんだよ?世界で一番、大好きなのに、なんで、連れ出して、くれないの!?」


「あかりが頑張ってたの、お母さん全部見てたよ。良く頑張ったね」


「おに、いっが!ひっぐ、おにぃがわた、しのっ。となり、えっぐ、に、いない、と!意味、無いんだよおおお!」


「亜香里、じゃあなんで、亜香里が望美の名前を書いたの?書かなければ良かったじゃない」


「ひっぐ。書くよっ!だって、あかりの、元々の夢は、ひっぐ。お兄の義妹に、なること、だもん」


「それさえ無ければ亜香里が勝てたのにね」


「うわあああん!おかあさあああん!負けちゃったあああ!!!」

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