第58話 いや、は?なんで?

諦めて亜香里と付き合うか?なんてことは一切考えられない。絶対にそんな恋愛はしたくない。


亜香里のペースに合わせたらダメだ。一旦、落ち着こう。亜香里は俺と我慢比べをしようと言うんだろうか。絶対、俺が折れると思って言ってるな。だが、ここで折れてはなんとやらだ。俺は、負けん!


「じゃあ、いいよ。俺が預かっておいてやるよ」


「いいの?お兄。お姉にバレるよ?」


「バレたらその時だ。俺は下着を預かってただけだ。じゃあな」


「そう。どうなっても知らないよ?」


亜香里がそう言ってくるが、気にしたらダメだ、と俺は現状維持を選んだ。


電話を終えた俺。うん、動揺はしてるけど、大丈夫、大丈夫だ。


ふん。俺はパンツになど屈しないし、例え望美に疑われようが、無実は晴らしてみせる。そうだ。絶対大丈夫だ。


俺はそのまま風呂に入り、勉強をしないで寝ようとした。


だが、全く寝付けない。


昨日の姉妹の寝た後にベッドに入ったら、めっちゃ良いにおいがする。やばい、これは、なんか、興奮する!


ちくしょおおお!俺は鋼の心を持った男だ。忍耐強くなれ。もっともっとおおおお!


その後も全く眠くならない。俺の宝物庫に入れた姉妹のパンツが気になる。望美にバレてないか気になる。嫌われないかどうか気になる。つーか、昨日のうちに母親にバレてんのかどうかすら気になって来た。







ーーーーーー


結局、一睡もできなかった。


「ゲホッ、ゴホッ」


なんか咳が出る。目の奥が熱い。ぼうっとする。


「三十八度。風邪ね。おとなしく寝てなさい。今日も母さん仕事だから、夕方まで帰ってこないからね。ちゃんと休んでるのよ?」


言えねぇ。パンツが気になって寝れなくて具合悪くなったとか、言えねぇ・・・。


「学校に、連絡は?」


「今からするわよ。起きれそうなら、冷蔵庫にあるもの、食べるのよ?」


昨日の味噌汁を思い出してゲンナリした。今日はおとなしく寝ていよう。





ーーーーーー



暑くて目を覚ます。時間はもう昼の十二時。


腹、減ったな・・・。


でも、あの味噌汁食べたくないな。食べるなら、望美のご飯がいい。


下から誰かが階段を登って来る音がする。


だれ、だろう・・・?


ガチャリとドアが開く音がした。そこに立っていたのは望美だった。


鍋の上に鍋敷きを乗せて、望美はこちらを見ている。


「はやちゃん、おはよう。調子はどう?熱測ってみて」


「のぞ、み?なんで?おまえ、学校は?」


「早退しちゃった。横山先生から聞いたよー?風邪ひいたの?」


「みたいだな。寝たから、ちょっとは良くなったはずだ」


「朝から、何も食べてないんでしょ?今おかゆ作ったの。食べる?」


「うん、食べたい」


「ん?うわぁ。熱は三十八度かぁ。辛そうだね。食べさせてあげるね」


「いいよ・・・自分で食べれる」


俺の言葉を無視して、鍋からお椀におかゆを盛っていく望美。


蓮華で一口食べた望美は、そのまま掬って俺におかゆを向けてくる。


おい、間接キスだぞ?


「熱くないよ?口開けて?」


「おまえ間接キ「いいから」」


もぐもぐ。うん、美味い。


少しだけ塩気が強くて、汗かいた今の俺に丁度いい味付けだ。


「おいしい?」


「おう。やっぱり望美の作ったやつは美味い」


「どういたしまして」


望美はどんどん俺におかゆを運んでくる。気づけば俺はお茶碗で三杯も食べていた。


「下にね、味噌汁があったんだけど、美味しかったよ」


「えっ?まさか食べたのか?」


「うん。はやとを感じて美味しかった。元気になったら、また作って食べさせてね」


あんなの口が滑ってもおいしいなんて言えないのに、なんでこいつは美味しいって言うんだ?


優しく微笑んでいる望美に、そう聞くことはできなかった。


「ねぇ、最後にひとつ、いい?」


望美が顔を近づけて来る。おでこで熱でも測りたいのか?


「風邪って移せば治るんだって。だから、わたしに移して」


んぐっ。


俺の唇に、何か柔らかくて、弾力のあるものが触れる。




・・・・・・は?


今、俺、望美にちゅーされた?


俺はびっくりして、閉じた目を開いた望美を見る。


なぜか、寂しそうに俺の唇を指でなぞる望美。





「じゃあね、亜香里と、お幸せに」




え?今何て言った?


俺は声がなぜか上手く出せなくて、望美がそのまま部屋を出て行ってしまった。

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