第53話 いつもの朝、ではない。


朝の教室が、いつもより騒がしく感じる。


まぁ、俺が眠いだけなんだけどな。


「よう、なんか眠そうだな?大丈夫か?」


「眠らせてくれ。平穏よ、カモン」


「朝から疲れ切ってんな。一日持つのか?」


今日一日、寝ていたって横山ちゃんは俺を怒らないだろうな。


薫の話がほとんど頭に入ってこない。


あ、望美に解決したよって言いたい。


でも、いっか。眠い。おやすみ。


「よーし!若く逞しい諸君、おはよう。今日は悪い知らせと良い知らせがある」


あ、やべ、絶対起きなきゃやばいやつじゃん。


「一昨日から、五橋の下駄箱に脅迫文を入れる奴がいる」


ザワッと教室が波打つ。


「だがな、今日、その犯人を捕まえたやつがいる。おい、寝たふりするな、起きろ」


机に顔を伏せていた俺は、起き上がれなくなっていた。


え?先生、フリじゃ無くてマジで眠いんですって。やめてくださいよ?


「今日水谷は朝早くから学校に来て、わたしと一緒に犯人探しをしてくれた。犯人を捕まえたのは、水谷だ」


「はやちゃんっ!?」


望美の声で俺はやっと顔を上げた。薫、うざすぎる顔でこっち見んな。邪魔だ。


クラス全員の視線が俺に集まっている。


横山先生はニヤニヤしながら俺を見ている。


そして望美は、自分の席で立ったままこっちを正面に見ていた。


彼女の顔が真っ赤だ。だが、体の内側から灯がともったような温かな表情、安心した様子が見て取れた。


と思ったら、急に目に涙を浮かべて、こちらまで歩いてくる。


俺は横山ちゃんをチラッと見て助けを求めた。だが、横山ちゃんは両手を上にあげて首をかしげるばかりだ。


仕方ないな。目立ちたくないけど、こればっかりは逃げられん。


俺も立ち上がった。そしたら、望美が勢いよく抱きついてきた。


「ヒュー!熱いねぇ!!」


「うおおおお!ついに五橋のハートは水谷のものに!?」


「すごいねぇ。好きな人のためにそこまでするんだ」


教室中から冷やかしの声が聞こえる。


俺は困って望美を見るのだが、涙目上目遣いで返してくる望美が離してくれない。


「こら、イチャつくなら後にしろ」


横山ちゃんの声で、望美がしぶしぶながらに離れて席に戻る。


「五橋、一限休んでいいから職員室に来い。事情を話す。水谷には褒美として、一限だけ保健室で寝る許可を与える。みんなも水谷みたいに頑張れとは言わないが、困ってる奴がいたら助けてあげてくれ。以上だ」


え?俺、保健室で寝ていいの?やった!


「颯人、おまえ何一人で朝から楽しんでんだよ!俺も呼べよ!」


薫にそう言われる。


アホか。おまえと一緒に行動したら、ドジって多分捕まえられなかったわ。






ーーーーーー





高校に入ってから、全く用の無かった保健室に初めて来た。


普段、体調悪いことは無いし、怪我することもない。保健室は一階だから三年のクラスの近くにある。だから余計に普段は近づかない。未知の領域。


「失礼します。寝に来ました」


「あら、今日のヒーローの水谷くんね。体調はどう?」


保健室の先生は女性だった。まぁ、男性だとしたらびっくりだけどな。保健室の先生は女性のイメージがある。


「ちょっと眠いだけですね。今日朝早く起きたので」


「何時間くらい、寝たの?」


「うーん、四時間くらい?」


「もっと寝なきゃダメだよ。今日は具合悪い人まだ誰もいないから、安心して寝てね」


廊下側のベッドに通される。早速寝てみた。あ、なんか、うちのベッドよりふかふかする。


「じゃあ、おやすみ。四十分くらいしたら、起こすわね」


俺は静かに目を閉じた。昨日の夜、姉妹が近くにいて、全く寝れた気しなかったんだよな。やっと落ち着いて寝られる。


俺は静かに目を閉じた。

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