第29話 土曜、望美の日 その1
朝、なんとなく寝苦しくて目を覚ます。
ん?俺の腕の中にはすやすやと眠る栗色の髪が。
え?
望美、何してんの?
「あ、起きた?おはよう、颯人。えへへ。寝起きすぐに言ってみたかったんだ」
ちょいまち、起きろ俺。覚醒しろ、俺の頭。
おかしいぞ。望美と一緒に起床?なぜ?
望美はピンクのパジャマを着ている。
何故だ。
「おまえ、いつからいたの?」
「朝6時くらいかな。昨日じゅんこさんに合鍵もらいまして」
うちの母親何してるんだろう。合鍵作りすぎでしょ。
「いつも傘立ての下に置いてある合鍵は亜香里のために残しておくみたいだよ。んー、でも傘立ての下って危ないから、今度亜香里の分も作ってもらうね」
そしてもう一本また作る気らしい。
こいつら俺が健全な男子高校生であることを忘れている気がする。
さよなら、俺のプライベート・・・。
「え、ここでパジャマに着替えて、俺の布団に潜り込んできたの?」
「そうだけど?」
なにーーー!なぜ俺はもっと早く起きなかったんだ!
「それより、朝から元気だね」
「何が?」
俺の下の方を指差して顔を赤くする望美。
「うん、元気ないよりはいいんじゃないかな?」
「これは、な。不可抗力なんだ」
「うん、わかってるわかってる。颯人も男の子だもんね?」
別にエロいこと考えなくても、男の朝は元気なのだ。仕方ないのだ。
あああああああ!!
「ごめん、ほんと、ごめん」
「わたしが勝手に添い寝したのが悪いんだし、気にしないでよ」
添い寝かぁ。ちくせう。
寝たふりしてもっと堪能すれば良かったのか?
「筋肉痛は治った?」
「おう、まぁ、ちょっと気になる程度かな」
「良かったぁ、一緒に歩けなかったらどうしようって心配してたんだよ?」
「あ、そういえば、今日出かけたいんだっけ?どこ行くの?」
「ふふーん。よくぞ聞いてくれましたっ」
望美が朝から満面の笑みで右手を高く突き上げる。
「ホラー映画を観に行こうよ!!」
ーーーーーー
駅前にある映画館は、土曜日だからか学生が多い。隣接するゲームセンターにも学生が溜まっている。
学生が行く場所といえば、カラオケ、ボーリング、ゲーセン、映画、と行く場所はたくさんあるはずなのだが、こんなに集まるとは思わなかった。
「映画なんて久しぶり〜!」
ずっと上機嫌の望美はめちゃくちゃ可愛い。
いつものポニーテールではなく、今日はお団子頭に水色のロングスカートである。
あれ?望美ってスカート絶対履かなかったような・・・。
「今日のおまえの服装、いつもと違くね?」
「おっそ!はやちゃんわたしの顔見てくれなかったからわかってたけども。おっそ!」
仕方ないだろ。朝の件がめちゃくちゃ恥ずかしかったし・・・。
「ほら、周りの女子とわたしを見比べて颯人も鼻高でしょ?」
「そういうこと、言えちゃうんだよなぁ」
「何?今日の私、一番可愛くしてるよ?」
そう言って腕を組んでくる望美。
こいつはぁ・・・。
「あれ?もしかして照れてる?」
「今日の望美さんはやけに積極的ですね」
「ふっふーん。メロメロにしちゃうぞ?」
そう言って笑う望美。
「で、どれ観るんだっけ?あ、ホラーならこいつしかないか」
「カップルシートが空いてるよ?ねぇねぇ、今日カップル割引だって。どうする?」
「俺らはカップルじゃ「安いしこれにしよ」」
タターン!
・・・何だ今の素早いタップは。
こいつ俺に喋らせもせずにカップルシート購入しやがったよ!
「じゃ、早く行こうよ、ダーリン?」
今はホラー映画より望美のほうが恐ろしいんだが。
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