第28話 4月22日金曜日、夜のマッサージ


ーーーそれは夕食後の出来事だった。


4人で鍋焼きうどんを食べた後、望美がスーパーの安売りを忘れていたらしく、俺の母親と車で出かけてしまった。


ついて行こうとしたが、ゾンビは休んでてと言われ、おとなしく自室で待機してる。


亜香里と。


「おまえは行かなくて良かったのか?」


「こういうところがお姉の抜けてるところだと思わない?わたしとお兄を二人にするなんてさ」


「ん?何の話?」


「まぁ、それだけ信頼されてるんだけどね。良いところではあるかな」


なんか、亜香里の口調がおかしい。途切れ途切れじゃない。いつもみたいに俺が亜香里の言いたいことを想像しなくても良い。


「誰だおまえ?」


「ごめんねお兄。わたし普通に喋れるんだよ?」


え?何それ。突然すぎて受け止め切れないんですけど。


そりゃあ、亜香里は受験者のトップで高校に入ってるから、めちゃくちゃ頭が良いのはわかる。だけど、それとコミュケーション能力は別だと思っていた。


立派になったな、亜香里。


「もうお兄は卒業でいいか?」




その瞬間、泣きそうな顔をした亜香里。


「それは無理」


あれ?


「そんなこと、望んでない。お兄は、お兄」


口調が戻ったぞ!


「いや、おまえ今普通だったじゃん」


「何の事?ツチノコ見たんじゃない?」


ツチノコってどんなやつだっけ?


「それより、今からマネージャーをする。こっちに来て」


「マネージャー?」


「お兄専属。マッサージ」


あ、そうか。筋肉痛の俺のためにしてくれるのか。


「ベッドで寝ればいいのか?」


「うつ伏せになって」


お、おう。


「わたしも、うつ伏せ」


!!


ちょっと待て、背中になんか柔らかいものが当たってるんですけど。


「あ、亜香里さん?」


「こっち見ちゃダメ」


「いや、これマッサージですか?」


「気持ち良い?」


なんて答えれば正解何だろうか。


「わざとやってるんだよな?」


「なんで、お姉に、告白、しないの?」


「突然だなぁ」


「昨日か今日、二人は付き合うと思ってた」


「そうか?」


「だから田村と帰ったのに。ヘタレ」


田村って上田のことだよな?もはや田の漢字しか合ってねーぞ。


「早く告白しないと、わたしにだって、考えがある」


「何企んでんだよ」


「わたしのこと、好き?」


・・・・・・


・・・なんだその世界で一番パニックになる二文字は。


「早く付き合わないと、わたしがお兄をパクリ」


「え?俺ゾンビだからおいしく無いぞ」


「食べちゃうぞーがぶり」


「ぎゃっ!?」


背中に歯を立てるな!


つーか何だ?今日の亜香里はめっちゃスキンシップ多いな!?


「イライラする。早く付き合って。こっちにも、事情がある」


「俺の話、聞いてくれるか?」


「一応、聞く」


「あのさ、俺、昨日の試合も、今日の昼の餃子パーティーも、めちゃくちゃ楽しかったんだ」


「うん。亜香里も楽しかった」


「だから、しばらくあの仲間のまま、このままでいたい。できれば、そうだな。夏休み前には決着つけるよ」


「約束破ったら、亜香里と付き合って」


ん、なぜ?


「そうか、俺らが付き合う前に、あかりに彼氏ができたら悪いと思ってるんだろ?」


「もう一回噛むよ?」


「ごめんなさい」


「わたしは、ずっと、待ってる。もしこれ以上延ばしたら・・・」


「延ばしたら?」


「夏休み、お兄の初めてを、全部いただく」


お、おう。かっこいいな。俺も使ってみたいセリフだわ。


「お兄に、このセリフは似合わない」


「心を読むな。エッチだぞ」


「続き・・・する?」


ああ、そういえばマッサージの途中だっけ?明らかに違うことしてるから忘れてたわ。


なぜか俺の足ツボを刺激する亜香里。まぁ、亜香里は力無いから足くらいしかできないよなぁ。


「お兄、明日と明後日、予定ある?」


「土曜と日曜?無いぞ」


言ってて悲しくなる。


「そんな悲しい顔、しないで?」


「おう。んで、どっか遊びに行きたいのか?」


「わたしじゃなくて、お姉」


望美が?あいつも暇だったのか。


「はやままにお金たくさんもらっておいてね」


こいつは俺に何して欲しいんだろう?


まぁ、望美は倹約家だから、そんな金かかる場所行かないと思うけどなー。

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