第閑話 夏休み
§1 ティミーとアキヒサの里帰り
ああ素晴らしき転移石!
夏休みが始まる前日、ミアにも一応帰る事を伝えようと会いに行き、馬車旅について嘆いていると彼女がくれたのがこの石だ。友達と一緒に帰ると話すと二つくれたのだ。
そしてこの石についてだが、中には魔力がこもっており、使うとなんと使用者を指定した場所に転移させてくれるという優れものだ。ただ転移するための条件はある。それは使用者がその場所についての記憶を持っている事。つまり一回行った事のある場所じゃないと転移できないという事だ。基本的に生き帰りに使う用のため二回転移すると壊れるという事だ。
でもそんな事はどうでもいい。俺は今感動している。あの辛い馬車旅をせず再びこの土地の土を踏みしめる事ができたことに! ありがとうミア! この恩は忘れない!
「アキ? アキー?」
転移石に感動してしばらく茫然と立ち尽くしていたからか、ティミーが
「あ、あぁ。どうやらちゃんと転移できたようだな」
「なんの連絡もしてないからお母さんびっくりするかな?」
ティミーはそう言うと、いたずらをする前の小さい子のような無邪気な笑みを浮かべる。
「だな、早く言って喜ばせてやろうぜ」
「うんっ」
家に向かおうとすると、少し向こうからこちらに走ってくる人影を確認することができた。
「うおおぉぉおおおティミーいいいいいいいアキぃいいいいいい!!」
この普通に話せばイケボであろう低い声、聞き覚えがある。
「でかい魔力の動きを感じたから何事かと来てみたらまさか二人だったとはなぁ。いやぁ大きくなってよぉ」
「そんな変わってないと思いますけどね」
村に来て最初に会ったのがのがよりによってベルナルドさんとはな……。
「んなこまけぇことは気にするなよ。いやぁティミー、一層可愛くなったなぁ」
「エヘヘ、ありがとうございます」
ティミー照れたように笑みを零しながらお礼を言う。まぁ確かに余計可愛くなった気がしないことも無い。
「アキは相変わらずだな」
「悪かったですね……」
何がおかしいのかベルナルドさんは高らかに笑う。
「なっはっは、おっと、こうしちゃあいらねぇ! 早く村の皆にも伝えねぇと!」
そう言うやいなやベルナルドさんは全速力で走っていってしまった。
「さて、驚かせたいならベルナルドさんの手が回る前に家に戻らないとな」
「ふふっ、そうだね」
ティミーは小さく笑うと、俺の手を引っ張りながら愉快そうに家へと走りだす。
家の前まで来ると、前と変わらない光景が目に映りこんだ。まぁたかだが四ヶ月やそこらで変わっていたらそっちの方が驚きだけども。
ティミーがコンコンと扉をノックする。
「はーい、今出ますね」
ゆっくりと扉が開けられると、これもまた前と変わらないお美しいヘレナさんが驚いた表情で立っていた。
「お母さんただいま!」
「ティミー、アキ君!」
ヘレナさんは名前を呼ぶと、両手で俺らを抱きかかえてくれた。
ふむ、悪くない。
その日は俺達のため、村で急きょ宴が催されることになり、どんちゃん騒ぎ(一番騒いだのはやはりベルナルドさんだった)をした後、懐かしい家でゆっくりと寝た。いやぁ、やはり故郷の空気というのは良い物だ。
§2 ティミーの意外性
とある日、ベルナルドさんが定期的に行っている狩りに俺も同行させてもらっていた。村が平和なのもこの狩りで魔物を退治しているおかげという事だ。
最初それを聞いた時、恩返しもかねていつか手伝いたいなと思っていたのだが、まだ子供すぎて危ないという事で同行させてもらえずにいたが、遂に許可が下りたのだ。
「ここは森の中、いつ魔物と出会ってもおかしかぁない。くれぐれもはぐれるんじゃあねぇぞ」
「うっす」
「はい」
……だが解せぬ。何故ティミーまでここにいる。
「あのさ、やっぱティミー危ないから村で待っとかない?」
「待っとかない」
「ですよねー」
当初俺だけ行くはずだったのだが、何故かティミーが自分まで行くと言いだしたのだ。危ないからと俺も村の人も止めたのだが、案外強情なティミーはまったく譲らなかったので、仕方なく一緒に連れていっている。もしもの事があれば全力で俺がティミーを守りながら逃げる手はずだ。
しばらく森の中を歩くと、近くのくさむらがざわざわと揺れるのであの時買ったマイソードを構えると、ベルナルドさんはそれを手で制す。
しばらくそのくさむらを見ていると、不意にそこからバカでかい口を開けたうさぎのような耳のついた魔獣が飛びかかってきた。
「去れ!」
その魔獣に向かってベルナルドさんはそう叫ぶと、なんとたちまちその魔獣は背を向けて逃げ出す。
何が起きた?
「え、今なにやったんですか?」
「なに一喝しただけさ。長い事俺ぁここで魔物共を倒してきたからなぁ。奴らには自然と分かっちまうんだろうよ、王の貫録って奴を、な」
「あっそうですか。分かりました」
「え? 今けっこう真面目だったんだけどぉ!?」
なんとなく決め顔をしてきたのが
「ねぇ、あれは……?」
ティミーが何かを見つけたようなので、その目線を辿ってみると、木の間からのそのそと歩いてくる魔物がいた。なんかサイみたいだな。
「ここら一帯に生息する魔物サイロンだ。突っ込んでくるくらいで特別強いとかはねぇんだがただなぁ……」
「ただ?」
「基本群れでこいつらは群れで行動するんだ……つまり」
「敵は複数」
「そういう訳だ。行くぞアキ。何人いるかはその時の運しだい、運が悪けりゃ数十頭相手にする事になる」
「うっす」
間もなく数匹のサイロンが姿を見せると、一斉にこちらに向かって突進してきた。
「クーゲル!」
まず一頭に魔力弾が的中、剣でそれを切り伏せ、次いでもう一頭の方にフェルドゾイレで火柱をお見舞いする。他のサイロンは全てベルナルドさんがやってくれたらしい。
「ほう、やるじゃあねぇか。だが運の悪い事に囲まれちまったみたいだなぁ」
見渡すと、確かに俺らは囲まれていた。周りにはサイロンが今にも飛びかからんと角を光らせている。
「ちょいとこれじゃあ分が悪い。俺が退路を開くからいったんティミー連れて逃げてくれねぇか?」
「分かりました」
ティミーがいなけりゃ俺も参戦するところだけどまぁ仕方が無い。今度はなんとしてでもお留守番を……。
「私だって戦えるよ? ランケ!」
ティミーが杖を振りかざすと、周りを囲んでいたサイロンたちに植物の
「今だよアキ!」
「え、あぁ、おう」
えっと、敵の数はざっと十二頭か……ぎりぎり足りるな。
「ウノスゾイレ!」
唱えると、蔓で身動きがとれなくなっていたサイロンたちの足元からは紺色の火柱が噴き上げる。
ウノスゾイレはいわばフェルドゾイレの複数版だ。いくつかの火柱を一度に噴き上げさせる魔術で、術者の練習次第でその火柱の数は何十にもできるが、今の俺はまだ十二本までしか出せない。
「やったねアキ!」
サイロンが灰と化したのを確認すると、ティミーは嬉しそうに笑顔を見せる。
「にしてもお前……」
いつの間にかあんな魔術を使えるようになってたんだよ。
「私だって五年生に進級できたんだからね。あれくらいの魔術の一つや二つはお手の物だよっ」
ティミーはそう言うと誇らしげに胸を張って見せる。人って成長するんだなぁ……。まぁ薄々この子は何か持ってるとは思ってたけどさ。
「ほぉ、すげぇじゃねぇか二人とも……」
まさか俺達がここまでやるとは思っていなかったのだろう、かなり驚いているようだ。という俺もけっこうお驚いていたりする。ティミーに関してはかなり予想外だった。
「エヘヘ」
ほめられて嬉しかったか、ティミーは少し頬を赤らめながら微笑む。
でもなんでだろう、可愛らしく笑ってるだけのはずなのになにか恐怖の様なものが……。
その後、しばらく森の中の魔物を適当に一掃した後、村へと帰った。
ティミーの才能のようなものを垣間見た一日だった。
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