第四十五話 七つ星

 なんだかんだ合格してしまうと、どこかの部屋に通された。いくつかの丸テーブルが置いてあり、その上には色々なお菓子が置いてある。それを取り囲み雑談している生徒たちは表情が晴れやかな事からどうやら合格者のようだ。その中からミアがこちらに走ってくるのを確認することができた。その表情は他の生徒同様晴れやかだ。


「アキ!」

「おう、なんとか合格できたぞ」


 ミアは俺の目の前まで来ると、何故か怒った様子で腕を組み顔を若干背けてくる。


「ど、どうやらそのようね。上等よ」

「そりゃどうも」


 そんな感じに言われてもな……。

 どうにも複雑な気持ちを抱いていると、ミアがチラリとこちらを見た。


「ま、まぁでも、お互い七年生になれたんだから、その、またよろしく」

「だな、よろしく」


 少しの間お菓子をつまんだりして時間をつぶすと、キアラもこの部屋にやってきた。


「やっほーお二人とも!」

「キアラ!」


 声を聞くや否やミアは嬉しそうにキアラに飛びつく。待遇の差が顕著だな。俺にも飛びついてくれてよかったんだよ? 


「おーよしよし。アキに何かされなかった~?」

「何言ってんだよ……」

「だってアキヒサさん、今ちょっと変な目でこっち見てましたよねぇ?」


 笑みを浮かべからかうようにキアラが言う。

 いや確かに見てたけど決して変な目では……見たな。


「ま、まぁあれだよ。皆合格してよかったじゃないか。うん」

「話そらしてるしー」


 ジトーっと睨むな。可愛いだろうが。


「まぁいいや。またみんなで一緒にがんばろうねっ」


 嬉々とした様子でキアラが拳を天上に掲げると、元来た場所とは別の扉が開け放たれた。

 そこには校長を先頭とした教師陣が並んでいる。


「七年進級試験は全て終了した! まずはおめでとう。君たちは晴れて七年生だ! これより星を刻むので心して並ぶように!」


 校長の声が部屋に響き渡ると、それに呼応したように生徒たちが動き出す。

 最初はかなりの数がいたにも関わらず今ではかなり減ってしまっている。

 確か六年の人数は三百人ほど、ほとんどこの進級試験は受けにくるらしいからそれは良しとして、だいたい今いるのが五十人くらい……。という事は八割以上落ちたってのか。運がよかったみたいだな今回は……。


「はやくはやくー!」


 感慨深く生徒たちを眺めていると、キアラが列で手招きするのでそれに応じる。まぁ最後尾に並ぶのに急ぐ必要も無いと思うけど。

 

「おや、編入生の二人じゃないか。早速昇級してしまうとはな」


 順番が来ると、校長が話しかけてきたのでキアラがそれに応じる。


「ご無沙汰してまっす! このままどんどん昇級して卒業しちゃいますよ~」

「フッ、素晴らしい心意気だ。その様子だと本当にすぐ卒業してしまいそうだな」

「はい! がんばります!」

「少年も、ちゃんと自信を持つことだな」


 少年、俺の事か。


「まぁそうですね。校長先生のお墨付きとあらばほどほどに持っておきますよ」


 過度の自信は失敗の元だと身をもって知ったからな。ほどほどに、だ。


「そうかそうか。まぁいい、手帳を出したまえ」


 手帳を取り出すと、前と同じく光を帯びた手帳が宙に浮くと間もなくして手元に戻ってくる。

 確認すると確かに星は増えていた。七つ星。なんだか嬉しい響きだ。


♢ ♢ ♢


 その後、ティミーとアリシア、アルドの順番で良い知らせが届き、晴れて寮生全員が進級という結果に終わった。そのため、今寮ではささやかなパーティーが行われている。

 いやぁワードさんのケーキ美味いなぁ。


「だが流石だなアキ……僕が上がってもまたその先に上がってゆく。それでこそ僕の良きライバルだ!」


 いつの間にライバル認定されてたの俺……。まぁいいけどさ。


「アルドさんはまだ四年でしょう? 七年のアキさんと肩を並べる価値があると本気で思ってるんですか?」


 その発言に対してアリシアが責めるような口調でアルドに言った。

 最近思う。アリシアさんってアルドにだけは当たりきついっすよね……。


「う、うるさい! ライバルと言ったらライバルなんだ!」

「自らの実力をわきまえないその態度、自惚れもほどほどにしてください。気持ち悪いし目障りです」

「なっ……そ、そこまで言わなくても……うぅっ」


 辛辣なアリシアの言葉にとうとう泣きだすアルド。流石にいたたまれないな。


「男なのに泣くとかあり得ないですね……」


 全力で引いた様子のアリシアがとどめの一撃を放つと、アルドはとうとう部屋の片隅で縮こまってしまった。


「ねぇねぇところでさっ、アキって夏休みどうするの?」


 アルドを慈悲の目で見ていると、キアラがそんな事を聞いてきた。

 夏休みか……。確かに試験期間が終わればもうそんな時期になるんだったな。


「村に帰省だな」

「なるほどなるほど、という事はティミーも帰るんだね」

「うん、久しぶりにお母さんに会っていっぱいお話したいから」


 ふむふむと頷くと、急にニヤリと笑いだす。


「アキさんや、久しぶりに同じ部屋だからと言って変な事しちゃだめですからなぁ?」

「しないから」

「ほんとかなぁ? あんなことやこんなこと果てには……」

「まじで勘弁してくれ……」


 少し意識しちゃうでしょそんな事言われたらさ!


「ふふーん、アリシアはどうするのー?」


 一通り俺をからかって楽しんだか、キアラは満足そうに息をつくと今度はアリシアに話を振った。


「私は学院に残って次の学年に備えて予習、とかですかね」


 視界の片隅で縮こまっているアルドの肩が一瞬ビクリとしたのはどういう事だろうか……。

 

「なるほど流石はアリシア、意識高いねぇ」

「意識高くて悪かったですね」

「わっ、ごめんごめん、そういうつもりじゃなくて普通にすごいと思ったんだよ!? ほんとだよ!?」


 機嫌をそこねてしまったらしく、キアラは慌てて謝る。

 アリシアは意識高いと言われるのはあまり好きじゃないらしい。


「アルドはー?」


 お、ちゃんと聞いてやるんだな。


「ぼ、僕かい……そうだね……僕もここに残るんだ……」


 なるほど、先ほど肩をビクリとさせたのはアリシアも残ると知ったからか。そりゃご愁傷さまで。

 アリシアといえばさして気にした様子は見せていない。


「そっかー」

「そういうキアラはどうすんだ?」

「よくぞ聞いてくれた! 私は家に帰って海で泳いで山を登って川で魚捕まえて虫捕りもしてあと……」

「分かった。もういい、楽しんできてくれ」


 長くなりそうな気がしたので話を打ち切りにかかると、キアラは不服そうに声を上げる。


「ぶーぶー、まだまだ話し終わってないんですけどー」

「あんまり長いと疲れるんだよ」

「せっかく私の胸のうちの楽しみを皆に分け上げようと思ったのにさー」

「余計なお世話だ」


 そうこうしている内にパーティーも明けると各々部屋に戻り就寝に着く。

 そのまま何日かのんびりと過ごしているうちに、とうとう夏休みが始まった。

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