第198話恥ずかしくて決して言えないような言葉
「わたくし、頑張りましたわっ!!」
「うん」
「旦那様が舐められないように、むしろ旦那様の存在価値を知らしめる事ができたかと思いますわっ!!」
「うん、それはよく頑張ったね」
「はいっ!! 当然他の令嬢に舐められないように着物をしっかりと着こなして優雅に、かつ可憐に、そして美しく立ち回ってきましたわっ!!」
「そこまでする必要もなかったのに。 着物のにまだ着慣れていないだろうし、大変だっただろう?」
「そんな事はありませんわっ! 確かに今まで着慣れてきたドレスとは違いまだ少しばかり歩きにくいのですけれども、それでも旦那様のためだと思えば苦ではございませんわっ! むしろ旦那様のお役に立てているのだと実感できる分、ドレスよりも着物を着て行って正解だったと思っておりますわっ!!」
旦那様の顔を見てしまうと私はいてもたってもいられず駆け出し、思っている事がそのまま口から出て止まらなくなてしまう。
そんなわたくしを旦那様は文句を言うでもなく受け止めてくれ、そして否定するでもなく聞き役に徹してくれながらわたくしの頭を優しく撫でてくれる。
その度にわたくしは旦那様に甘えて、まるで誉めてほしい子供のようにあれもこれもと話し、そしてその度に旦那様が頭を撫でながら『頑張ったね』『大変だったね』と、時に誉めて、時に労ってくれる。
その度に私の胸の中に暖かな感情が溢れて、溢れてしまいそうになってくるのだが、それでもまだその感情を味わいたいと思ってしまい、旦那様に求めてしまう。
その姿はまるで子供だなと我ながら思い、大人の男性である旦那様とわたくしではやはり釣り合わないのだろうか? と、少しばかり不安になるものの、それでも旦那様と結婚したのはわたくしである事実と共に旦那様に軽く抱擁されながら優しく頭を撫でられると、そんな不安もどこかへ消え去り、代わりに幸福だと思えてしまう。
もう既にわたくしの感情は幸せで溢れ、まるで野良猫がすり寄るように旦那様に甘えてしまいたいという欲求を我慢するのが大変な程である。
そんなわたくしの心情を知らない旦那様は、ここで追い打ちをかけてくる。
「そうだ、頑張った妻に労うのが旦那の務めであると思うので、何かシャーリーがして欲しい事はないか?」
「……ス……を、してほしいですわ……」
「すまん、聞こえなかった。 もう一度言ってはくれないか?」
「キ、キスを……して欲しい……ですわ……」
恐らく多幸感が強すぎて少しばかりタガが外れてしまっていたのだろう。 普段では恥ずかしくて決して言えないような言葉をすらすらと言えてしまうわたくしがいる事に、まるで他人事のように驚いてしまう。
●婚約破棄された公爵令嬢、日本へ嫁ぐ Crosis@デレバレ6/21連載開始 @crosis7912
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