第179話女性四人、恋話で盛り上がる
そしてミヤコは優しく温かい表情でわたくしを見ると「今奥方様の胸の内にある感情を楽しみなさい。それは今しか感じる事しかできない初恋という最初で最後の貴重な体験でございます。それに奥方様の場合は、基本的には実らないとされている初恋の相手と幸か不幸か既に婚姻されているのですから」というと優しくわたくしの頭を撫でてくれた。
それだけでわたくしの心は温かい気持ちで満たされていくのが分かる。
旦那様に撫でられた時も心は満たされるのだが、それとはまた違う、とても優しくて温かな感情だ。
「話は聞かせてもらいましたよっ!!この恋愛マスターである安奈さんにまっかせなさーいっ!!」
しかし、そんな温かな感情も次の瞬間には勢いよく開けられた部屋の扉と共に、勢いそのままに入ってくる安奈やサオリンによって見事に霧散し、新たに羞恥心という感情が訪れてくる。
まさかあの恥ずかしい内容を二人に聞かれていたと思うと穴があったら入りたい気分である。
「アンタ彼氏できた事ないでしょ?」
「そういう沙織だってっ!!」
「私は別に、どこの誰とは言いませんが彼氏ができた事ない癖に恋愛マスターなどという烏滸がましい肩書は名乗ってないもの」
「まったく、あんた達は。せめて入る時くらいはノックをしなさいな」
「次から気を付けますっ!!それよりもミヤコさんの初恋話が聞きたいですっ!!」
「ばっ、わっ、私はいいわよ。こんな二児の母の初恋の話なんて面白くもないでしょうっ。そういうのはあなた達若い人がするものよ」
「あのー……わたくしだけというのは不公平と思いますので此処にいる皆様の初恋話を聞かせて欲しいですわ」
「えー、あー、そのー」
「わ、私の話を聞いてもつまらないわよ……?」
「も、もう随分と昔の事だから忘れてしまったかもしれないわね」
しかし、その羞恥心も皆で分かち合えば少しはマシにはなるだろうと思い提案してみるものの、次の瞬間皆一様に挙動不審になり、先ほどまでの威勢は消え失せ、まごつきだす。
「それに、向こうに帰ると今までみたいに頻繁に安奈とサオリンに会えなくなってしまいますもの。なにかお二人の思い出に残して向こうに戻りたいですわ。だ、駄目でしょうか?」
そんな状況を見てわたくしの中の悪魔が「今押せば行ける」と囁いて来ると、わたくしの中の天使も「ここは皆様と打ち解けるいい機会でしてよ」と囁いてくるので、再度本心を交えて伝えてみる。
勿論一番は皆の初恋を聞いてみたいという好奇心からではあるののの、本心には間違いはないため嘘ではないのでセーフだろう。
「そ、そこまで言われたのなら……」
「答えてやるのが世の情け……」
「なら私は邪魔したらいけませんから聞き手役になりましょうかね」
「「却下で」」
そしてその夜は女性四人、恋話で盛り上がるのであった。
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