第132話それでも食べると返事をする

「魚の生のお肉って、あの水の中で泳いでいるお魚の生のお肉ですの?」

「ああ、その魚の生の肉で間違いないな。まぁ、恐らくシャーリーの想像しているのは川の魚だろうけど、川魚ではなく海で獲れた魚という違いはあるんだけれども、それでも魚か魚じゃないか聞かれれば魚で間違いないな」


そして旦那様はわたくしの問いに『魚の生肉』であるとい言うではないか。


もしかすればわたくしの聞き間違いの可能性だってあると思い、わたくしは再度旦那様へこの宝石の様に光り輝く赤と白、オレンジ等の色をした見た事も無い食べ物が何なのか聞いてみるのだが、やはり旦那様の返事は変わる事無く『魚の生肉』である事には間違いが無い事が分かった。


「た、食べても大丈夫なのでしょうか?」


王国では毎年生焼けの魚を食べて食あたりに合った者の話が耳に入って来るくらいには『生の魚は危険』という常識がある為、どうしても『生の魚は危ない』と思ってしまう。


周りの皆様はおいしそうにこの『おさしみ』という魚の生肉を食べているのを見るに、口にしても問題が無い食べ物である事は窺えるのだが、どうしても今まで培ってきた常識からくる恐怖心という物は拭えない。


そしてわたくしは緊張して張り付いた喉を、気が付けばコーラを飲み癒していた。


コーラも初めて見た時はその色に驚いていたのだが、一度飲んでしまえば何てことはない。


気が付けば無意識に飲める様になるまでになっているのだから、きっとこの『おさしみ』という食べ物も一度食べてしまえば何て事は無いのだろう。


しかしながらその一口が遠いのもまた事実であるし、魚の生肉が危ないのもまた事実である。


「まぁ、あんまり無理して食べる必要はないさ。今でこそ寿司等のお陰で普通の料理として扱われ初めているのだが、ついひと昔前まではシャーリーと同じで外国からはゲテモノ料理のような反応は良くされていたくらいだしな」

「い、いえ。食べさせて頂きますわ。だってわたくしは『にほん』国民である旦那様の元へ嫁いだんですもの。旦那様のお国の料理を見た目や今までの経験則から苦手だと食べる前から決めつけるのだけはしたくないですの。苦手かどうかは一度食べてわたくしの舌に合うかどうかで判断致します」


そしてわたくしは食べなくても良いという旦那様へ、それでも食べると返事をする。


それに、例え旦那様の元へ嫁いでいなかったとしても、わたくしだって王国の料理を一口も食べずに嫌いだと言われるのを想像してみれば悲しい気持ちになりますもの。



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ただ単に食い意地が────おっと、誰か来たようだ(*'▽')

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