第128話子供っぽい

はっきり言って今まで飲んできたどんな飲み物よりも圧倒的に美味しいと思えるくらいには、この『りんごジュース』とやらの美味しさは一つどころか二つ以上レベルが違っていた。


それこそこのグラス一杯で貴族相手に高級なワインと同等の値段を取れるくらいには。


「どうした?口に合わないか?合わないのならば他のジュースに変えようか?」

「い、いえ。美味しすぎて少し思考が追いつかなくなってしまっただけでございますわ」

「そうか、なら良かった。一応食事で不味いとか合わないとかあれば、我々の事を思って黙ってしまわれる方が申し訳無く思ってしまうから遠慮無く言ってくれ」


そうわたくしの事を気遣ってくれる旦那様なのだが、今の所食事に関して言えば全てが想像以上の美味しさである為文句などあろうはずがない。


大満足である。


ただ、強いて言うとすれば、という事が無いわけではないのだが、それを言うのはなんだか子供っぽくて恥ずかしくおもってしい躊躇ってしまう。


「何か言いたいことがあるのならば怒らないから言ってくれ。国も文化も違うんだ。不味いと思ったり合わない料理があるのは当然だと俺は思っているから」

「いえ、そうでは無くて………料理の味には大満足なんですけれども、その、あの………」


そしてそんなわたくしの感情が顔に出てしまっていたのか旦那様がわたくしに聞いてくれるのだが、わたくしが料理を不味いと思っていると勘違いしているみたいなのでその事に関しては訂正するのだが、他のジュースも飲んでみたいという一言がなかなか口から出てこない。


ただでさえ旦那様には間違いなく子供っぽいと思われているであろうに、ここで更に子供っぽい事を言うのは流石に恥ずかしくもあり、いち大人として見て貰いたいのでこのまま他のジュースも飲んでみたい、飲み比べてみたいとはどうしても言い辛く感じてしまう。


しかしながらこのまま言わないと旦那様にあらぬ誤解を招きそうなのでわたくしは着物の袖を握りながら意を決して話始める。


「あの、こ、子供っぽいと思わないと約束してくださいまし………」

「ん?あぁ、子供っぽいとは思わないと約束しよう」

「ほ、本当ですの?」

「あぁ、本当だとも」


そして恥ずかしさで俯くわたくしの頭を旦那様が優しくなでてくれる。


たったそれだけで勇気を貰えた気がするのだから旦那様は凄いと思う。


「あ、あの………わたくし、他のジュースも飲んでみたい……です」

「他のジュースも?それだけ?」

「は、はい。この『りんごジュース』なる物がこれ程美味しいのならば、他のジュースも美味しいのではないかと………それに先ほど旦那様が「他のジュースに変えようか?」と仰って頂いてからその事が気になって仕方が無くなってしまいましたの………」

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