第125話普通に欲しいとは思ってしまう

そうして日本側で旦那様の執事を務めているというジョンにわたくし達は、二列に並べられた席の最奥、その二列の頭のちょうど真ん中に用意された二つの席へと案内され、そのまま案内された席へ座る旦那様に倣ってわたくしも旦那様の隣に用意されている席へと座る。


そこには椅子も無く、床にそのまま座るという座り方で一瞬無作法では?と思うものの、その思考を直ぐに頭の外へと追いやり、床の上に用意されているクッションへとちょこんと座る。


「床に座るのには慣れていないだろうから足が痺れてきたり疲れてきたりしたら足を崩して楽にしていいし、低くはあり多少座りにくいかもしれないが椅子も用意するから遠慮無く言ってくれ」

「か、かしこまりましたわ」


そして旦那様が、床に座る事に慣れていないであろうわたくしの事を気遣ってくれるのだが、ずっと立っている等であればいざ知らず、ずっと座っているのが疲れるという事があるのであろうか?


とりあえずここで旦那様の善意を無下にしてしまい後々疲れました等と言い難くなるのは避けたい為一応は旦那様へと了承の返事を返す。


「あ、それでしたら背もたれがついていてクッションでふかふかの座椅子がありますのでそちらをご利用なさってはどうでしょうか?丁度使用人達が今現在結構な人数持ち込んでいる様な物ですね」

「なるほど、ではそれを一つ頼む」

「かしこまりました」


そして、そんなわたくし達の会話にジョンが『ざいす』という物を使うのはどうか?と提案し、旦那様がその『ざいす』とやらを持って来る様に命令をする。


その二人のやり取りを聞きながらあたりを見渡して使用人達を見てみれば『にほん』側の使用人達はちらほらと、王国側の使用人達はその殆どが、『足の無い椅子の様な物』を使って座っているのが目に入ってくる。


確かにあれだとただ座るよりかはだいぶ楽にできるであろう。


そしてわたくしの想像通りジョンが持ってきてくれた、ピンク色の座椅子に座ってみると、クッションの上に座るのとでは天と地ほどの差があると分かるくらいには大分楽に座る事ができる。


更にどういう構造かは分からないのだが背もたれの角度を変えたり、膝部分を山なりにする事ができ、わたくしの身体に合った形を見つけて座る事が出きるではないか。


流石に食事時という事もあり膝を折り曲げて座る事はしないのだが、されど普通に欲しいとは思ってしまう。


「一応この座椅子は奥方様に差し上げますので、そのまま持って帰って頂いても構いませんよ」

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