第87話胸がきゅーと締め付けられる

「か、かつどぅん?」

「まぁ、おいおい日本語にも慣れていけば良いさ」

「あうあう」


旦那様はそう言うと優しく微笑み、わたくしの頭を撫でて来る。


こうも毎回毎回撫でられていると言うことはやはり旦那様はわたくしの事を子供扱いしているのであろう事が伺えるというものである。


流石にわたくしとて成人している身であるし、何故だか知らないのだが旦那様にだけは子供扱いをされたくないと思ってしまうのでここで子供扱いをしない様に抗議しようとするのだが旦那様の微笑みを見た瞬間全てがどうでも良くなり、胸がきゅーと締め付けられると同時にやめて欲しいと思っているはずであるのに何故かもっと撫でて欲しいという欲求がやってくる。


これは、わたくし病気になってしまったのでしょうか?


と一瞬不安になるも旦那様の事から別の事へ思考を変えると胸の締め付けや理由の分からない欲求が無くなるのでとりあえずは今は大丈夫であろう。


今度ルルゥか誰かにでもこの症状について聞けば良いだろう。


そんな事よりも今は目の前に出された『ソースかつどぅん』である。


この香りだけでもう、美味しいのが分かるし、嗅ぐほど我慢できなくなってくる。


「では、みんな揃った様だから食べようか。いただきます」

「「「「いただきますっ!!」」」」


そして旦那様が『いただきます』と食べ始めたのを合図に待ってましたとばかりに一斉に『いただきます』と食べ始める。


勿論わたくしも例外無く、店員さんがわたくしにだけ別で用意してくださったナイフとフォーク、そしてスプーンを駆使して、いつかわたくしも皆んなと同様にお箸を扱って食事をしてやると心に秘めながら食べ始める。


「むぅうううっ!!??」


その一口は衝撃的であった。


言うなれば味わった事のない暴力的な美味しさと言えば良いだろうか?


『ぶた』という生き物のお肉をパン粉をまぶして揚げた『とんかつ』とその上にかかった『ソース』がまるでガツンとわたくしを殴ってくる様な美味しさであると思える程濃い味付けであるのだが、何故か次が欲しくなるのだ。


普通であればこれ程までに濃い味付けであれば塩辛すぎて水又はパンで薄めなければ食べれたものではないのだが、わたくしの口は次の一切れを欲してやまないのである。


しかしわたくしはその欲求をグッと堪え、皆と同様にご飯とキャベツを『とんかつ』と一緒に口の中へと入れる。


するとどうだ?


あれほど暴力的な味付けであったのがご飯の甘さと『きゃべつ』という葉野菜の水々しさとシャキシャキとした食感に薄らとではあるものの植物故の青臭さが『とんかつ』と『ソース』の脂っこさや濃い味付けの角を取り除き、口の中で一つの丸まった味が完成されるではないか。

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