第45話勝利の方程式


 どうやらこの料理は『ホットケーキ』という料理らしく、わたくしも皆と一緒に「いただきます」と言った後、机の上黒い板の横に置かれたトッピング一式が入っている手提げ籠を手に取る。


 トッピングには虫蜜、数種類のフルーツジャム、そして透明で三角形の入れ物に入った白い物と、先の尖った透明の水筒の様な入れ物に入った黒い物が籠の中に入っている。


「奥方様、白いのはホイップクリームという食べ物で、黒いのはチョコレートという食べ物でございます」


 そして白い物と黒い物を交互に眺めているとルルゥが白い物をホイップクリーム、黒い物をチョコレートであると説明してくださり、二本のスプーンを用意すると白い物と黒い物をそれぞれ一口分、試食しやすいように入れてくれる。


「両方ともまだ食べた事が無いものと見受けられますので、試食をどうぞ」

「ありがとうございますわ。 ではホイップクリームという物から頂きますわね……………っ!!!!?」


 なんですのなんですのっ! 何ですのっ!?


 口へ入れた瞬間溶けて行く滑らかさに加えてコクがある優しい甘さはっ!? これ程の物がなぜ今まで貴族や王族主催のパーティーで出されなかったのかっ!! それらパーティーで出される甘いだけの甘菓子や焼き菓子など比べ物にならないくらい美味しいですわっ!! そもそも、甘ければ甘い程良いというその思考停止した考えを吹き飛ばしてくれる、それほどの実力は間違いなく備わっている事を────


「奥方様………?」

「い、いえ。 少し考え事をしていただけですわ」


 思わず妄想の世界へと飛び立ってしまったのだが咳ばらいを一つして誤魔化すと、今度はチョコレートが乗っているスプーンを口へと入れ────


 あぁ、わたくし、分かりましたわ。勝利の方程式を。


 甘い。 確かにこのチョコレートという食べ物は甘いのだが先ほどのホイップクリーム同様に甘さだけではなく甘さと同時に苦みが口いっぱいに広がって行く。


 しかしその苦みが嫌な苦みではなく、むしろその苦みこそが美味しさに繋がっているという事にわたくしの中の甘菓子の常識がこの一口で覆された瞬間であった。


 そして、先ほどのホイップクリームとこのチョコレート。


 この二つを合わせればどうなる事か。


 最早勝利はわたくしの手の中である。


「満足して頂けている様で何よりです。 ささ、後は好きなトッピングを使ってこのホットケーキを飾りつけて行きましょう」

「わ、分かりましたわっ! 最後の仕上げですわねっ!」



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る