第11話落雷が落ちたかの様な破裂音

 そんな事を思っていたら外が騒がしくなり、気がつけば六名程の賊に囲まれていた。


 彼らの動きから見ても素人のそれでは無く、鍛えられた精鋭の集まりである事が窺えてくる。


 もしかしたら、と思わなかった訳では無い。


 しかしながら『やっぱり』という気持ちの方が大きく、これ以上の裏切りを二度も経験したわたくしからすれば予め予測出来たこの展開には悲しさという感情は湧かなかった。


 その代わり、ある意味で最後の希望でもあったのであろう。全てがどうでも良くなった。


 そう、生きる事さえ。


「奥方様、危ないので馬車の中で隠れてて下さいっ」

「それではミヤーコ、貴女はどうするのですか?」

「奥方様を守る為に戦わせて頂きますっ! ですので早く馬車の中へ隠れて下さいっ!」


 そう言うミヤーコの目は力強く、そしてその目を美しいと思ってしまう。


「その気持ちだけで十分でございますわ。 相手は人間でミヤーコは獣人でございます為貴女一人でしたら逃げ切る事も出来ましょう。 わたくしの事は見捨てて逃げなさい」

「なりませぬ奥方様っ!!」


 そんな、美しい目を持つミヤーコを死なせたく無いわたくしは逃げるように言うものの、ミヤーコは拒否する。


 ミヤーコのその姿を見て、つい最近までわたくしの世話兼護衛をしていた側仕えのメイドは今この状況で逃げるように言っても残ってくれるだろうか?


 きっと返事をする事も惜しいとばかりに逃げる事が容易に想像できてしまう為、こんな状況にもかかわらずわたくしは思わず笑ってしまう。


 わたくしは一体何のために、誰が為に産まれて来たのか。


 思い返せばシュバルツ殿下に相応しい結婚相手であるようにと習い事ばかりで実に味気ない人生であった。


 人生悔やむとすれば恋の一つでもしてみたかったと、今ぐらいは少しばかり思ってもバチは当たらないだろう。


「別れの挨拶は済んだか? 嬢ちゃん達?」


 そしてわたくしはもう一度ミヤーコに逃げるように説得しようとしたその時、賊が下品な笑みで近寄り、そう問いかけて来た。


「悪いね、これも命令なんで悪く思わないでくれよ」


 そう言う、恐らく賊のリーダーであろう男性はわたくしとミヤーコの身体を舐め回す様にして見ながら言う。


 自分達は飼われているのだと。


 それは、今ここで何をしてもこの者達は何の罪にもならないというお墨付きを貰っているという事である。


 こんな奴らに汚される位ならばいっそ舌を噛んで死んだ方がマシだと思ったその時、まるで落雷が落ちたかの様な破裂音が鳴り響く。


 そしてその破裂音は一発では終わらず、二発、三発と続け様に鳴り響き、合計六回もの破裂音が空気を震わす。

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