第90話 海
帝都を出ようとした時、シルフがまた話しかけてきた。
「何か忘れてない?」
「あ、アベルの事忘れていたな、どうしようか、アイツは今、城で休んでいるはず」
フェリクスはいい事を思いついたようでニヤニヤしながら、城に戻っていった。
「それにしても想像以上に酷い国だったな、ここは」
アベルは1人、城の1番上の部屋で窓の外を見ながらこの国の現状に憂いていた。そこに突然の訪問者が現れる。
「アベル、行くよ」
窓にから現れたフェリクスにアベルは驚きの声を上げるが、フィリクスはそのままアベルの首根っこを掴み、窓の外に飛び出した。
「なっ」
「やっほ―」
フェリクスは空中でアベルを抱きかかえると、壁を蹴り、城の外に飛んだ。フェリクスは城の外に着地するとアベルから怒声が響き渡った。
「何をするんだ、フェリクス」
「いや、今から、各地の視察に行こうなって」
「なら、わざわざ窓から放り出さなくても、普通に呼べばいいだろう」
「その方が楽しいと思って、てへ」
「てへ、じゃないわ、心臓に悪いから、やめろ」
「ごめん」
「それで、誰かにこのことは伝えているのか?」
「親父には言ってあるよ」
「ならいいか、無断で出てくると周りの者から何を言われるか、分かったものじゃないからな」
「何か、言われる事に関しては、何も保証できないよ」
「その時はその時だ、今は解放された事を喜ぼう」
「俺のお陰ってこと?」
「否定はしたいんだが、まぁ、その通りだ」
「じゃあ、結果オーライって事で行きますか」
「それで視察と言うんだ。フェリクスは今から何処に行くつもりなんだ」
「ちょっと南の海方面に行こうかなと思う」
「それで移動方法はどうするんだ?俺はお前の様に早く移動できないぞ」
「抱えちゃだめか?」
フェリクスの発言にアベルは頭を悩ませた。
「誰かに見られた時の俺の威厳を考えてくれ」
「うーん、それじゃ、アベルには強化魔法を掛けるか」
「・・・それで頼む」
移動方法も決まり、2人は帝都を出て、南を目指した。
1時間もしない内に塩の香りがフェリクスの鼻孔をくすぐり、海が近くにある事が分かった。そして、それは直ぐに2人の視界に写る事になった。丘を越えた先にその景色はあった。視界一面に広がる水にアベルは感嘆の声を出す。
「凄いな、これは」
「そう?海ってこう言うものでしょ」
「俺は国を出ることがなかったから、海を見るのは初めてなんだ」
「なるほど、なら、まだまだ、驚くかもね、ほら、マニラ町はすぐそこだし、いくよ、アベル」
「ああ」
まだ、景色を見ていたアベルを急かし、フェリクスたちは海にある港町に向かって行った。町に入ろうとすると、2人は思わぬ集団と出会う事になる。
「おやめください」
「ええい、うるさい、余りにもしつこい、そのままだとお前の手を切り落とすぞ」
一人の豪華な服装な人物が、兵士たちを連れて、色んなものを馬車で運んでいた。その後ろでは色々な人がその馬車の出発を止めたいようだが兵士が居て出来ないようだった。
「フェリクス、お前はあれをどう思う?」
目の前の光景にアベルは手を出そうか、判断がつかない様だった。
「多分、生き残りの貴族が、この町から命一杯の財宝とかを奪って逃げようとしている所じゃないから」
「絶対にそうと保証できるか」
間違ってはいけない所なのでアベルは再度、フェリクスに質問した。
「うーん、絶対とは言えないけど、あいつらの顔が今まで見てきたこの国の腐った奴らとそっくりだから、ほぼ100%だと思うけどな」
「なら行くぞ」
「はーい」
2人は馬車の進行方向を邪魔するように兵士たちの前に立った。
「お前たち何をしているんだ?」
「ああ、正義の味方気どりか?ここではそんな奴から、命を落とすんだぞ、お前たち、邪魔したらどうなるか、見せしめにこの小僧たちがどうなるか、見せてやれ」
豪華な服を着たリーダーらしき人物が馬上から兵士たちに指示を出した。兵士たちはニヤニヤしながら、フェリクスたちに近づいてきた。兵士の頭にもうフェリクス達を剣で突き刺している姿が頭に浮かんでいるのだろう。しかし、その妄想は現実で否定される事になる。
フェリクスが指を動かすと、兵士たちは、あっさり地面に転がる事になった。その光景に後ろの兵士たちは唖然としていた。
豪華な服を着たリーダーはその光景を見ていち早く、逃げ出そうとするが、フェリクスはさらに指を動かすとリーダーらしき人物は直ぐに地面とキスすることになった。
「まぁ、間違っていても殺さなきゃ、大丈夫でしょ」
「確かにそうだな、しかし、今度は、こいつらじゃなくて、恨みを持っていそうな町に人たちの方が危険そうだがな」
アベルの言う通り、フェリクスの魔法によって兵士の数が減ったので、今にも町の人たちは、飛び掛かりそうな感じであった。
「フェリクス」
「あいよ」
アベルの声にフェリクスは新たに指を動かし、残りの兵士を捕らえ、さらに、兵士と民衆の間に障壁を張った。
「皆さん、落ち着いて下さい、私たちはレオンハルト国から来たものです。この者たちが恨めしいのは分かりますが、ひとまず、怒りを納めてください」
「何でよ、そいつらに何人殺されたと思っているの」
「そうよ、皆、そいつらに何かしらの、恨みを持っているのよ」
「貴方たちは他国の人間だから分からないのよ」
聞こえてくるのは、悲痛な叫びだらけだった。しかし、アベルはここを統治する者として、ここで罪人を殺させる訳には行かなかった。
このままじりじりと時間が過ぎる者と思われたが、一人の老人が、前に出てきた。
「その者たちの罪はしっかりと問われるのか」
「はい、しっかりと調べて、レオンハルト国の法で捌きます」
「皆の者、聞いたであろう、一旦、帰るぞ」
老人の言葉に民衆は渋々と言った感じで解散して言った。
「ありがとうございます、ご老人」
「いやいや、儂もこの町から殺人者を出したくないのでな」
「ついでに聞きたいのですが、この捕らえた者たちは何処に運べばいいでしょうか?」
「それならば、ついてくるがよい」
老人の言葉に2人は罪人を引き連れて、老人について行った。
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