第86話  クビ

フェリクス達は国境を超える為に、詰め所で手続きをしていた。


「あんたは、この前の、生きていたのか、それに王子、ご苦労様です」


この前、フェリクスを心配してきた兵士は、フェリクスが生きている事に驚きの声を上げた。


「ああ、お久しぶりです」

「この前のダンジョン発生の事もあって心配していたんだぞ」

「でも、この通り戻って来ているので安心してください」

「まぁ、これでディスガルド帝国もおじゃんって話だから、今度は気兼ねなく、アンタを見送り出来るな」

「元気でね~」

「これまで通り、仕事に励んでくれ」


兵士が代わりに書いてくれて、フェリクスとアベルはそのまま素通り状態で国境を抜けることになった。


そのまま、フェリクス達は進むと夕方には最初の町が見えてきた。


「今日はここまでだな」

「そうだ――」


アベルの言葉にフェリクスが返事をしようとしたが、突然、横から前に聞いた事ある声に遮られる。


「おっと、町に入るなら通行料を払ってもらうぜ」

「また、お前か」

「なんだ、おま―ってこの前の金貨をすんなり渡してきた小僧じゃねぇか、また、金貨を払いに来たのか?」


どうやら、金貨を渡してきた事が印象に残っていたのか、金を要求した兵士はへらへらしてこっちを見てきた。周りにいる兵士も同じような視線を向けて来ていた。どうやら、こいつらは相も変わらず、同じ屑のような事をしている様だった。


「こいつらは、本気で言っているのか?」

「本気みたいだよ」


アベルは兵士たちの要求に唖然としているようだった。


「お前らは、今日からクビだから、さっさとその鎧を脱いでどっか、行っていいよ」

「何を言ってやがるんだ、このガキ?」


フェリクスの発言が信じられないのか、兵士たちは訝しげな視線をフェリクスに向けた。


「お前らだって、今、この国をレオンハルト国が支配しているのは知っているだろ、今ここにおらすのは、レオンハルト国の王子、アベル・レオンハルトその人だ」


偉い人だと分かったからなのか、兵士たちは一斉にアベルに対してひれ伏した。そして、今、自分たちが行った行為が、いかに不味い事なのか、分かったのか、兵士たちの体はかすかに震え始めていた。


「どうか、命だけは」


その兵士の発言だけで、ディスガルド帝国がいかに特権階級の人達が酷かったかが、伺えた。


「別に命とは最初から言ってないだろ」

「何でお前が答えんだよ」

「それは俺がこの国の統治権を貸して貰っているからだよ」


フェリクスの発言に兵士たちの反応はピンと来ていない感じだった。


「分かりやすく言うと、俺が今この国の王って所だよ、これで分かった?」

「なんで、お前なんかが、王になるんだよ」


振るえた声だが、疑問に思ったか、兵士はフェリクスに質問をしてきた。


「しいて言えば、俺の商会が国を救ったからだよ」

「国を救っただと?」

「この前のダンジョンだよ、この町にもモンスターが来ただろう、ああ、お前たちは我先に逃げて、それも知らないか、そのダンジョンを破壊したのが俺の商会ってわけ、これで統治権を貰えた理由がわかった?」


兵士たちは、フェリクスの言葉に激しく頷いた。


「それじゃ、さっきのクビって言葉も理解できたよね?理解できたのなら、早く何処かに行ってもらえると嬉しんだけど」

「・・・俺たちはこれから職を失ってどうすればいいんですか?」

「その前にどうして職を失ったかを反省するべきだと思うけどね、別に俺は鬼じゃないんだから、真面目に働いていたら、クビなんて言わなかったよ」


今更後悔しているのか、質問をしてきた兵士の目は若干、潤んでいた。


「どうしてもって言うなら、この国を復興する為に色んな人材を集めるから、そこに応募してみるといいよ、今度は真面目に働かないと、次はないと思うから、そこを肝に免じておいてね」


フェリクスの言葉を聞くと、兵士たちはお礼を言いながら去って行った。


「全く、これからのここの警備はどうするのだ、フェリクス?」

「一時的に冒険者たちを雇うことにするよ、前もここを守ってくれたのは冒険者だったしね」

「お前がそう言うなら何も言うまい、皆の者、中に入るぞ」


後ろの兵士たちのフェリクスに向ける視線が少しだけ変わったのがアベルにはわかった。町の中に入るとすぐに泊まる宿は見つかり、明日も移動がある事から、早めにフェリクス達は眠りに入った。

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