第75話  駐屯地

レオンハルト軍駐屯地


夜、フェリクスは駐屯地の近くの森で、駐屯地の様子を観察していた。駐屯している軍も今までの襲撃で警戒しているのか、夜にも関わらず、かなりの数の兵士が起きて巡回を行っていた。


しかし、それに構わず、近くで何かを運んでいる集団をフェリクスは発見する。


恐らく、あれがディスガルド軍の隠密部隊だろう。何か、箱に入っている物を出したかと思ったら、すぐさま、その部隊はそこから離れ始めた。その部隊を追うか、兵器の様子を見るの、二択でフェリクスは迷ったが、兵器を見る方を選択した。


箱から出てきたのは、コナーの情報通り、鉄で出来たオオカミの様なものだった。どのような原理で敵を察知しているのか、分からないが、鉄のオオカミは真っ直ぐレオンハルト軍に真っ直ぐ進んでいった。


その後ろをフェリクスはついて行ったが、すぐにレオンハルト軍は鉄のオオカミの存在に気づき、警報の鐘の音がそこら中に鳴り響いた。


それにより、駐屯地の明かりが次々とついて行った。それを見て、フェリクスはディスガルド国がよほど、兵器に自信があるらしいと感じた。


次々と駐屯地から出てきた兵士たちは鉄のオオカミを囲み攻撃を始めるが、有効なダメージは与えられていないようだった。しばらく、鉄のオオカミは反撃をしなかったが、急にその体の形状が変わり、体から生えた針で全方向の兵士たちを突き刺した。幸い、まだ、死人は出てないようだった。


ハリネズミの様に形を変えたオオカミは、元の形に戻るとオオカミは雄叫びを上げた。その様子に周りの兵士は怯えてしまうが、兵士を立ち直らせようと一つの声が聞こえた。


「立ち上がれ、皆の者、お前たちが倒れたら、誰が民を守るのだ」

「王子だ」

「来てくださった」

「王子―――」


そこに檄を飛ばしながら、現れたのは、レオンハルト国の王子、アベルだった。アベルが飛ばした檄によって兵士たちの士気は爆発的に上がったが、鉄のオオカミの倒し方が分かったわけではない。雄叫びを上げたオオカミからは、電撃が飛び交っていた。


「魔法が使える者は、電撃から皆を守る魔法を使えー」


オオカミの様子に直ぐにアベルは反応して指示を出すが、その直後にアベルに向けてオオカミから特大の電撃が放たれる。いきなりだった為、誰も反応できずにいた。このままでは電撃がアベルに当たる寸前の所で、フェリクスがオオカミとアベルの間に入り、防御魔法を使ってアベルを守った。


「まさか、フェリクスか?」

「本当は、手出ししないと思っていたけど、友達を助ける為だからしょうがないよね」


それだけ言うとフェリクスは振り返らずに刀を抜いて、鉄のオオカミに向かって行った。オオカミに向かう途中でフェリクスは周りの兵士に被害が及ばない様に、オオカミの周りを囲うような結界を素早く構築した。その様子が見えていたアベルは巻き込まれない様に兵士に指示を出した。


「皆の者、鉄のオオカミはその者に任せて一旦離れるのだーー」


その声が聞こえていたフェリクスには思わず笑みが零れた。


「いい指示だ、さてと、お前の相手は俺だな」


フェリクスの目の前には攻撃を邪魔されたからなのか、あらぶっている様子の鉄のオオカミがいた。しかし、電撃を無効化されたことで警戒しているのか、鉄のオオカミは仕掛けて来なかった。


「来ないか、ならこっちから行くぞ」


フェリクスは圧倒的な速度で鉄のオオカミに刀で切りかかった。


フェリクスの刀に反応してオオカミ避けようと動くが、フェリクスはそれを許さなかった。オオカミが避ける方向を予想していたかの様にフェリクスも移動していてオオカミの真正面に行くとフェリクスは簡単にオオカミ首を切り飛ばした。フェリクスが鉄のオオカミの首を飛ばした事によって、周りの兵士からは歓声が上がるが、フェリクスは、一瞬も気を抜かなかった。


フェリクスの予想通り、オオカミの胴体と首は、ドロドロ液体になると一個に集まった。そして、すぐに鉄のオオカミは元の姿に戻ってしまった。


「確定だな、シルフ」

「はいはい、前と同じ感じね」

「精霊武装をお願いね、シルフ」

「任されたわ」


フェリクスのお願いによりシルフは精霊武装の刀に姿を変えた。その刀を手に取ると、フェリクスはまたもオオカミに向かって行った。さっきのお返しとばかりに鉄のオオカミから電撃が飛んでくるが、精霊武装から出た風の障壁にあっさりと防御されてしまった。最後の抵抗とばかりにオオカミはフェリクスに噛みつこうと飛び掛かってきたが、通りざまにオオカミはあっさりと頭からケツまで一刀両断された。


またも鉄のオオカミはドロドロの液体になったがさっきと違うのは、核となる玉が浮き彫りになった事だろう。

鉄のオオカミが元に戻る前にフェリクスはさっさと精霊武装で核を真っ二つにした。それにより、鉄のオオカミは元の形に戻ることなく、ドロドロの液体が地面に染み込んでいった。

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