第144話
サイド:劉海
最後の一匹に鉄槌を叩き落す。
「ぐぴりっ!」
そして、周囲の死体の中に生きている人間がいないことを確認したところで、俺様ちゃんはその場にぶっ倒れた。
「もう……これ以上は鼻血も出ねえ」
龍化した龍王もウロコが剥がれ、体中の至る所に槍やら剣が刺さり、肉を割かれ、所々骨をむき出しにして、息も絶え絶えだ。
MP切れに至ったマーリンも近接戦闘に巻き込まれてボロボロ。
無論、俺様ちゃんも全身血まみれ……いやはや、本当に良くぞここまで追い込んでくれたもんだ。
長い人生だったが、命の危険を感じたのは初めてだな。
「ったく、次から次に怪しげなスキルを使いやがって」
「まあ、それが転生者だからね」
「しかし、我ら全員……見事にボロボロじゃの」
マーリンの言葉に俺様ちゃん達は力なく、けれど大いに笑った。
まあ、何だかんだで全員が戦闘民族ってことなんだろう。
間違いなく、俺様ちゃん達全員は今……心の底から笑っている。
――ここまで楽しい祭りは2度とこねえだろうな
そんな寂しさも交えながら、これまで鍛え上げた己の肉体を全力で使えたことに、神に……いや、リュートに感謝する。
「ともかく我等全員が力を使い果たし打ち止めじゃ」
「ま、やっこさんもこれで打ち止め。あとはリュートがモーゼズをぶっ飛ばして終わりだな」
と、そこで龍王が肩をすくめた。
「どうやら、あちらも終わったようだね」
見ると、そこには全てを終えて晴れやかな顔のリュートたちが見えた。
「はは、ボロボロじゃねーかお前ら」
「まあ、最後だからな。これくらいやらねえと収まりもつかねえ」
そうして俺様ちゃんは立ち上がり、リュートとハイタッチしようとして――
――その時、ドーム内にアラーム音が響き渡った。
サイド:リュート=マクレーン
「アラーム音!?」
何事だとばかりに俺たちが狼狽していると、ドーム内にモーゼズの声が響き渡った。
≪congratulations! 今、君たちがこの音声を聞いているということは、勝負は君たちの勝ちだったようですね≫
「モーゼズ……生きてたのっ!?」
コーデリアの疑問に俺は首を左右に振った。
「いや、録音か何かだろ。あそこまで綺麗に肉片になって死んでなかったらデタラメだ」
「ロクオン?」
「いや、分からんならそれでいい。ともかく、奴は死ぬ前にまだ何か仕込んでやがったってことだ」
≪それでは勝者に私からのプレゼントです。はは、なあに遠慮はいらない。勝者に景品が与えられるのは古代からの人の慣わしなのですから!≫
「景品……だと!?」
≪我々は箱庭内……いや、方舟内において外なる神の内の一体の隔離に成功しています。私のアナウンスを聞いているということは、制御下に置けずにこちらの敗北ということでしょう≫
おいおい……と俺と龍王は顔を見合わせた。
「連中……そこまでやってやがったのか?」
≪さて、それでは本題に入りましょう。私の生命活動の停止と共に隔離装置が停止することになっています≫
不味い。
その流れは不味い。
龍王も、劉海も、マーリンも、リリスも……もちろん俺も。
ただ一人、事情を知らないコーデリアを除いて全員の顔色から血の気が引いた。
≪さあ、絶望と言う名のプレゼントです。私と君たち。その双方が止めようとしていた究極の生物兵器の箱庭内への侵入です。そして旧世界の崩壊の再来――大破壊です!≫
押し黙る一同の耳に、モーゼズからの最後のアナウンスが届いた。
≪さあ、世界を救ってみせなさい。勇者気取りの――村人風情がっ!≫
あの……クソ眼鏡っ!
最後の最後までどんだけ性格悪いんだよ!
「ちょっとリュート? どういうこと?」
「聞いてのとおりだ。そして……不味い事になった」
「外なる神ってのがヤバいのは分かるんだけど、そんなに強いの? たくさんいる内のたった一体なんでしょ? 人類最強のこのメンツなら……」
いいや、と俺は首を左右に振った。
「元々、外なる神を排除することも視野に入れてたからな。そもそも駆除可能なら武装放棄なんてする必要もねーんだし。まあ、だから、アレのことは俺たちは良く知っているんだ」
「具体的には……どれくらいヤバいの?」
「まず、ダメージが通らない。絶対防御だ」
「……絶対防御?」
「対物理障壁。対魔法障壁、物理と魔法の混合障壁。都合三層の結界障壁。これを抜くだけでも至難の技ってやつだな」
「至難ってことは……通すことはできるんだよね?」
「カタログスペック通りなら、龍王、劉海、マーリン、そしてリリスで障壁まではギリギリ突破可能だな……障壁だけであれば」
「だったら――」
「そして、本体の魔人並みのタフネス。更に言えば障壁は突破してもすぐに再生する。で、こっちは障壁を何度も抜けない。それぞれの渾身の一発でどうにか一回抜けるかどうかってとこだ」
そこで、遂に状況を理解したコーデリアの表情からも血の気が引いた。
「それって……」
「ああ」と俺は頷いて言葉を続けた。
「……終わりだ。何もかも。もうサジを投げるしかない」
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