第127話
サイド:コーデリア=オールストン
「私も、四肢を切り落とした花嫁を好き好んでもらう趣味はないので、反抗的な態度はとらないようにお願いしますよ」
その言葉を聞いて、ゾクリと私の背中に冷や汗が流れたのだった。
「ぐっ……」
苦渋の私の表情を見てモーゼズは恍惚の笑みを浮かべる。
「困った顔も美しいですねコーデリアさん。本当に貴女は最高だ。笑顔も、凛々しい顔も、泣き顔も、困った顔も……全てが美しい! 私の生涯の伴侶のふさわしい!」
「勝手に伴侶とか決められても困るんだけど?」
「最も優れた者が最も美しい女をめとり、優秀な種を残す。自然の摂理に逆らってはいけません。ふふ、そうですね。子供の数は20人くらいを目途にしましょうか? 多くの種を残すことこそが優れた者の次世代への義務なのですから」
このクソ眼鏡……っ!
聞いてはいたけど、本性晒した瞬間にこれって何なのよ?
ここまで他人を気持ち悪いと思ったことは生まれて初めてだわ。
そうしてモーゼズはリリスに一瞥をくれて、軽く舌打ちと共にこう言った。
「あの水色の髪の女を殺しなさいリュート。側近に妻にしても良いレベルですが……美しき者といえど反抗的であれば必要ありません。コーデリアさんほどの美しさなら話は別ですがね」
そのままリュートはリリスの眼前に超高速移動で動き、大上段に剣を構えて――
「……リュート?」
リリスの言葉に反応はなく、振り落とされる白銀の刃。
それはリリスの肩口に吸い込まれる。
私も、リリスもあまりの速さに反応ができない。
プシュウと鮮血がリュートとリリスの頬を染める。
終わった。全てが終わったとそう思ったその時――
「げろ……逃げろリリスっ!」
リュートの剣が途中で止まり、リリスの肩の皮から少し先を切った程度で済んでいたようだ。
すかさず、私はリリスに突進してタックル。
担ぎ上げるように抱きかかえ、そのまま猛速度で戦線から離脱していく。
「離せコーデリア=オールストン!」
「離さない! このまま逃げる! それしかないっ!」
最大戦速での離脱。
風圧で髪が乱れるが、そんなことはお構いなし。今は命がかかっている。
リュートがその気ならすぐに追いつかれるけど……今のところはそれはなさそうだ。
モーゼズだけであれば肉体的ステータスは私が圧倒しているだろうし、このままリュートが止まってくれていれば逃げ切れる公算は高い。
「コーデリア=オールストン! リュートは剣を止めた! 今ならリュートも正気に戻ってくるかもしれない! 引き返せっ!」
「戻ってこれるならとっくに戻って来てる! アイツが……リュートが逃げろって言ってんのよ!? どんだけヤバいか分かるよねっ!?」
「しかし……」
「私を信じなくても良い! リュートを信じて! アンタの惚れた男が言った「逃げろ」って言葉を信じてっ! お願いだから!」
リュートが何とか理性でモーゼズの命令を押さえ込んでいる今しか、逃げることはできない。
ここでモタモタしていると、リュートの最後の抵抗が無駄になる。
そしてリリスはしばらく押し黙り、悲痛に、今にも消え入りそうな声でこう言った。
「……了承した」
そのまま私は振り向きもせずに、後方に向けて大きく呼びかける。
「リュート! 必ず私達が助けてあげるから! だから待ってて!」
と、私の言葉にリュートではなくモーゼズが応じた。
「ははは、必ず迎えに行きますからね! 私の愛しい戦乙女っ!」
そうして、私達はそのままその場を離脱したのだった。
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